E ink keyboard for YOGABOOK C930
発売元/製造元 Lenovo inc.
諸元
キー配列 valiable that depends on language(more than 30 layouts preset)
メカニズム capacitive touch panel and E ink (with error correction app.)
I/F
OS Windows10 home
備考
Junk Point 「近未来」か「リアルな未来」か

本年の生贄生誕前夜祭をさかのぼること10日、2018年12月14日に、筆者は期待と後悔がないまぜになった複雑な心境のうちに出社した。
いつもの殺人的なワンオペがひと段落したころ、その散財の種は届いた。

全世界からの注文が殺到したとのことで、ともすると越年か....と思われた「YOGA BOOK C930」の到着は、筆者の予想だにしなかった迅速さで訪れた。
「単なる興味のために16諭吉」および、時を同じくして勃発したポイントばらまき祭りに乗り換えるか...との筆者のキャンセル考慮の暇を与えない、およそかの企業らしくない迅速さであったといえよう。

かの名古屋BICカメラ店員に吹いた通り、筆者は歴代の謎IBM/LENOVOモバイル(?)プロダクツにやたらと手を出している。
(2435/9103/PalmTopPC110/755CDV/TransNote/55P4800/PS5527sx/730Tなど)
だが本サイトをご覧いただいている方々はご存じだと思うが、これらのすべてはおぢゃんく/または新品売れ残りの投げ売りで手に入れたものであり、また曲がりなりにも実用性を兼ね備えていた(730Tもか?)

本機はそれに劣らずエッジが立った、というかエポックメイキング、....というか、ノートデバイスとしては実用性にかなり怪しい印象のある「近未来機」かもしれないマシンであり、しかも前出のマシン群と比較して投資額が桁違いである。
本機が戦力として配備されることになるのか、それとも単なる散財で終わるのか。

イラストやスケッチをされている方は、おのずと用途もあろうが、ドキュメンテーションツールとして使用するしかない筆者にとって役に立つツールか否かの大きなポイントは、ひとえに本稿で述べる、HIDたるこの部分にかかっているだろう。

キー配列
キーのアニメーション
他のタッチキーボードで希望したことが実現
動画

で...サイトにタコができるほどに、筆者は繰り返しこの手のタッチキーボードの実用性に疑問を呈してきた。ていうか、ディスってきた....ように思う。
一方でそれらは、どんなに近未来的な技術を使用していようと、極論すれば単なるスイッチ機構の集合体であった。

先代YOGA BOOKで採用された「HALO keyboard」の系譜に連なる本機は、それらとは一線を画す学習機能を備えたインテリジェントHIDとなっている。現に筆者は先代のデモ機を操作したとき、ものの数分でそこそこタイピングできるようになったのに驚き、そのお値段もあって真剣に購入を検討した経緯がある。

その時は結局どうにも我慢のならないいびつなピッチのJP版しか手に入らないとわかり断念したが、今回は1台で30言語以上のパターンを備えたマルチキーボードである(筆者にはJP/US以外は無用の長物だが)。いかに高額とはいえ興味を持つなというほうが無理な相談だろう。

多言語対応である点に筆者の用途はないが、一方で本機のコンセプトはASCII/OADG以外の配列を実装する可能性を示している。プログラミング次第で、DVORAKやNICOLAなどのマイナーともいえる配列に対応することも可能であると思われる。
しかし一方でLenovoは、おそらくARMベースで独立して動作している本キーボードのAPIを公開しない方針とのことで、今後のバリエーション拡張の有無はひとえに大和研究所にかかっているといえよう。

キーレイアウト/言語切替画面
こちらの操作だけでWinの設定も変わってくれれば...
動画

他所でも書いたように、本機を正確にタイプする肝は「おおむね正しいポジションに手指を固定すること」と「同時押しをキャンセルする機能をうまく活用する」ことのように思う。その2点に意識を置きながら操作したこのセンテンスは、筆者でも意外なほどに正確にタイプすることができた。
たとえば、前者は「両掌の位置関係を意識する(場合によっては両拇指あたりを接触させながらタイプする)」ということで、後者は「正確に打てた指を、次のキーを打つ際にそのまま設置させておく」といったところだろうか。
それらはおそらく、筆者が今までに購入したタッチキーボードでも活かすことのできるコツかもしれない。

そのうえ本機は「エラー訂正学習機能」と「同時押し誤反応抑制機能」を備えている。

もちろん、前者がより正確なタイプをもたらす大きな役割を果たすとされているのだが、実は地味に後者も重要な機能であると思う。
というのは、安心して鍵盤面に掌底をのせておくことができるからだ。
この機能がない場合、手のひらでキートップ部分に触れても反応してしまうので、常に手全体が鍵盤面から浮いた状態でタイプすることを余儀なくされる。 それに対し、本鍵盤は(ちゃんと装備されている?)パームレスト付近に手のひらをのせて操作をすることが可能になっている。これは腕の緊張の軽減に重要な役割を果たすと期待される。

配列的にも変態の部分が少なく、おおむね狙ったキーに着地できる。筆者としては、RollUp/Downがカーソルキーに隣接していること、/キー・backslashキー・そしてーキーが縮小されているところがやや打ちにくさをもたらしている(本サイトでネタにしているデバイスにはその文字が多用されるから)のだが。

(左上)日本語/(右上)US
(左下)中国繁体/(右下)スロベニアww

エラー訂正機能に関しては(これは筆者の推測に過ぎないのだが)誤入力の訂正の仕方によっては十全な機能を発揮しないかもしれないと感じた。
というのは、ネット上で読んだ本機能に関する記事によれば「backspaceを押して訂正した直前直後のキーの相関を記憶する機能」だったと記憶している。

もしその機能のみだとすると、たとえば全角入力でミスをした場合、変換をかけてからエラーに気づいてbackspaceを操作した場合、直前の入力キーはスペースバーやEnter...ということになり、実用的なエラー訂正となりえないからだ。

その辺の真偽は微妙なところである。筆者の入力においてミスは、上記のシュリンクしたキーと、どちらの手も左右のずれ(S←→D、I←→Oなど)が多い。このへんがわりと反復して起こる一方で、ほかの筆者所有のタッチキーボードに比べると明らかにエラー発生数は少なく感じられる。
よって、個人の「変換入力のクセ」が、エラー訂正機能のはたらきに影響を与えているのではないか...という推測に至った次第なのだ。

あと一点気になるとすれば、上の項でも述べた通り(これは他のタッチキーボードにも言えたことだが)キーボードとオペレータの位置関係がわりと限定される....という点だ。
他のノンインテリジェントなタッチキーボードと比較すればだいぶ改善されているのだが、それでもラフな姿勢(椅子にダラーっと腰掛けたり、傾いた姿勢だったり)や、YOGABOOKを置くデスクの高さが変わったり、あるいは平行なデスクに置かない状態で操作すると、キーと体(指)との位置関係を感覚的につかむのに、その度ごとに少々時間を要するだろう。

これは物理的な凹凸のないHIDの宿命といえるかもしれないが、たとえば通勤電車の車内でカバンに乗っけて操作...などというシーンを少し難しくすることになるかもしれない。
筆者は田舎暮らし&勤めで電車に乗らないので関係ないが、職場のデスクで使用するのと、自宅の畳の間に置いた和卓で座椅子に座って操作するのでも、操作を始めてからしばらくはオペレーションの速度がそれほど上げられないのである。

(左)Classic(...といっても先代YOGA BOOK)/(右)Modern(パッドが引っ込むヤツ)

ここまでの結論として、YOGABOOK C930と本キーボードは、基本的にとても良くできている、と思う。

「可動メカキーボードと比して遜色ない操作性」というのも、あながち間違いではない。間違いではないのだが....やはり同等までには至っていない、というのが筆者の感想だ。

筆者が感ずるところでは、本機をメイン機として使用しても問題がないと思われるのは「ほぼ問題なくブラインドタッチができ、鍵盤面をみなくても大丈夫」な方か「数本の指で鍵盤面を常にながめながら入力している」方なのではないだろうか。
それ以外の大多数のユーザーの方は、セカンドPCorタブレットとして使用されたほうが、ストレスは少ないと考えるのだ。尤も、セカンドマシンとして使用するには、その価格が大きなネックとなるように思うが。

もし、幸運にも早々と本機の入手に成功されたにもかかわらず、本キーボードの操作性に「?」と思われた方がおられるようなら、是非とも「英語配列(English(US))」で使用されることをお勧めしたい。
勿論個人的感想だが、「日本語配列」はとにかく右端のキーが非常に使いにくい。可動メカキーボードで同種のシュリンクキーピッチをもつもの(少し前のThinkPad Xシリーズなど)でさえ操作がしにくいのだから、触ってその大小の区別がつかないタッチキーボードでは言うまでもないことだ。先にも述べたように、その極めて戦略的な価格と先鋭性を持つ先代YOGABOOKに手を出さなかった第一の理由はそのJP配列だったのだ。

他に「キーボード側とOS側の配列変更は別操作」など、細かな改善してほしい点はいくつかある。
しかし、「現実に到来した未来」じゃなかった「近未来」プロダクツを多く見ては、ここでネタにしてきた筆者としては、「ひょっとすると...」との期待を久々に抱かせるエポックメイキングな製品だ。

尤も、「キーボード」というデバイスに未来があれば...という、根源的な疑問が存在するのだが、まあそれはそれであろう。




(2018/12/14購入、2018/12/15記、2019/01/06脱稿)

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