Plat'Home FKB8530-T701
Plat'Home FKB8530-T701
メーカー Plat'Home(富士通高見澤コンポーネント製)
諸元
キー配列 US/104key(Winx2/Contextx1)
メカニズム メンブレン/ラバードーム
I/F PS2
備考 コンパクト←→エルゴノミクスコンバーチブル
Junk Point 人間工学性肩こり
「中には『地球にやさしい』なんて見当外れのキャッチコピーもあるけど」
かつて田村玲子は泉新一にそう語った。

他の地球内生命に比して質的/量的に強大化しすぎた人間が、強者の立場から弱者の自然に手をさしのべる。しかも強者の利益を図るために。
.....勿論優しくないよりは、優しい方が良いと筆者などは思う。
だがどんなに従者に歩み寄ろうとも、結局主人の慈愛は主人の論理なのである。

ま、この問題を突き詰めていくと「地球に本当に優しいのは人間を捕食あるいは虐殺して数を減らすこと」といった辺りの、我々人間にとって暗い未来に落ち着きそうなので、この辺にしておこう。

筆者が言いたかったのは、2つの対立する命題が止揚なり妥協なりを以て接近しようと企図するとき、「どちらか一方の立場に立ったものである」という根本的な問題を内包していることが多い....ということだ。


キーボード部の表面と裏面
2カ所の接合部のためチルト脚は4本ある
「人間工学」という言葉が日本で提唱され始めたのは、大正時代のようだ。

元々"Human factor"あるいは"Ergonomics"として欧米で研究され始めたのは、さらにもう少し以前のことである。
『人間が可能な限り自然な動きや状態で使えるように物や環境を設計する学問』がその定義だそうだ。

しかしここでちょっと考えてみたい。『人間の自然な動き』とは何なのだろうか。

人間は(もちろん他の生物もだが)長い年月の間の淘汰と進化を経て、自身を取り巻く環境に適応してきた。
その結果として、直立歩行・精巧な手指の運動といった独自の運動能力を獲得してきたのだ。

いささか飛躍し過ぎかも知れないが、人間特有の能力とは、環境に適応する能力の高さではないかと思うのだ。
石器時代の人類が道具を開発して以来、人間は自然界で天敵に脅やかされながら暮らしていた頃の身体機能を急速に変化させてきた。そして現代に至り、変化は更に加速している。

発明当初は教習所へ通うのが当たり前だったという自転車も、すでに子供の頃に乗れて普通といってもよい状況だし、19世紀中頃に商業生産が開始されたタイプライターは、当初開発者自身が推奨を断るほどのシロモノだったようだが、現代ではキーボードに姿を変え、多くの人にとってリテラシーの根幹を支える不可欠なデバイスとなっているのだ。

変形ギミック
2本のビスを緩めて連結機構をスライドさせると外れる
こうした「人間の側からの」環境への適応に対して、"Ergonomics"は「環境∋機械の側からの」人間への歩み寄りをおこなう学問とも言える。

しかし前段で考察したように、人間の高い環境適応能力を前提にした時、果たしてその努力が不可欠なものか、若干の疑問が残る。

勿論、「長時間作業をしても疲れにくい」というのは大切なことだ(特にげしや〜にとっては)。だがそれも「生産性の向上」という雇用者・ひいては経済論理の立場から発生した「潜在的搾取」行為であるとするならば、我々作業者にとってはあまり有り難くない....といったら言い過ぎであろうか。.....

.....あー、疲れた。
やぱこの手の精緻な考察作業は筆者には向かない。

で、これは萌えとヲに乗っ取られつつある秋葉から早々に撤退し、時代に先駆けて無店舗販売+ICTコンサルティングへと事業を転換した「ぷらっとほ〜む」がかつて販売していた"FKB8530-T701"、筆者が初めて手にした「いわゆるエルゴノミックキーボード」である。
筆者は職場で上司からそれっぽいMicrosoft("Natural"ではない)Keyboardをもらったことがあるし、また、パッケージにそれらしき絵が描いてあるパチモンをうっかり逝ってしまった過去もある。

しかし今日に至るまで、どうもあの妙な鍵盤面のうねり具合が好きになれないでいる。
それは高校時代にかじったピアノの教本で著者が、脇を開いて弾く「ガマ弾き」を散々にこき下ろしていたのがトラウマになっているからかも知れない。
接合部
にもかかわらず筆者がこのキーボードを購入するに至ったのは、言うまでもないことだが

ネタになりそう

だったからだ。

エルゴノミックキーボード自体は世に沢山出回っているのだが、OmnikeyにしろGoldTouchにしろ、Microsoft以外はいかんせん値段が高すぎてネタのみのために投資するには気が引ける。

その点このキーボードは生産終了直前の投売りでは¥3kほどだったようだ。
筆者はオークションで1樋口で入手した。あまり出物を見ないので、まずは妥当なところであろう。
筆者の予想を超えて巨大だったパームレスト
ご覧のとおり、このキーボードの特徴はエルゴノミック形態と、コンパクト形態のコンバーチブルであるところであろうか。

キーボード中央部に着脱可能な連結部と、キーボード右端とテンキー部分の永久連結部があり、ここがつながっている状態では省スペース型のフルキーボードになる。

キーボード上部にある2本の金属ネジを緩めると、内部の連結機構がスライドして外れ、「5→←6」〜「B→←N」の間がバカッと割れる仕組みになっている。

コンパクト形態の場合に、この連結部の強度が叩き心地に影響を与えるのではと思ったのだが、意外にしっかりとした剛性感だ。チルトしても、脚が4本付いているのでそれほど撓んだりもしない。
パームレストへのセットは載せるだけ
入手するまで実物を見たことがなかったので、キーボード+パームレストの構成と聞いて「手前にくっつけるようなパームレストなのかな」と想像していたのだが、さにあらず。
写真のような巨大な、「キーボードベース」と呼んだほうがふさわしいような大袈裟なシロモノが付いていた。

パームレストの材質は意外にフニフニとしたABS系の樹脂である。
エルゴノミック形態にする際、このベースに固定するのではなく、ただ単に切れ目にあわせて乗っけるだけだ。
こちらも見た目に若干不安があるが、実際に使ってみると思ったよりもしっかりとした感触である。

ところで、人間の指を主に動かしているのは前腕(ひじから下)の屈筋群と伸筋群で、手の細かい筋肉(掌側/背側骨間筋)は補助的に動きを制御しているに過ぎない。
したがって指を動かす力は手首を挟んで腱で伝えられるため、理論的には手首がまっすぐのほうが力がうまく伝わりやすい。

エルゴノミックキーボードの中央の盛り上がりは正にそのためにあるのだが、長年横方向にはフラットなシリンドリカルスカルプチャになじんできた筆者には、キーボードを叩くというよりも、手がモノをつかむ様なポジションに感じられる。

つまり「かめはめ波発射直前の悟空」とでも言えばよいのだろうか。

それ故に両手及び両腕に妙な力が入り、かつ両手の間隔が遠く感じられるので、叩く位置も微妙に感覚とずれてしまうのである。

ルミナス机には
ちょっとデカ過ぎたらしい
そしてもう一点、このキーボードをエルゴノミック形態で使っていると、筆者自身の妙な癖にも気付かされる。

筆者はどうやら、通常のキーボードのスペースバー「中央よりやや左寄り」を「右親指」で叩いているらしい。
ここまでこのキーボードを使ってつらつらと書いてきているのだが、何度か中央の緩衝地帯を叩いてしまうことがあった。

それに、たしか何十年か前のOllivettiタイプライター教本には「右人差し指の担当は6YHNUJM」とあったように記憶しているが、この形態では6キーが左側陣営に位置している。これも何度もタイプミスをしてしまった。

このあたりはそれこそもう「慣れる」しかないのだろうが、どうしようもないのがそのサイズである。
筆者自宅の60cm奥行ルミナス机では、とてもディスプレイと共に机にすっぽり収まる....というわけにいかない。
やはり普通のOAデスクや、事務机でないと乗り切らないサイズである。

もっとも、思ったよりも剛性が高いので、多少パームレストがはみ出してもそれほど叩き心地に大きく影響するわけではないのだが。

富士通高見澤コンポーネント製の
あのタッチ
かつての富士通高見澤コンポーネント製ということもあり、キーそのものの素性は良く感じられる。
FKB-8520/8720あたりと同じスイッチ機構を使っているので、打鍵音は非常に静かで軽いタッチである。

筆者の個人的な欲を言わせてもらえば、カーソルキーが逆T字ではなく、PC-9801シリーズのような十字であるのが少し惜しい所である。このタイプのものをしばらく使っていないので、どうも手がなじまないのだ。

.....あれこれとここまで書いてきたが、この文章の前半8割をエルゴノミック形態で打ち込んだ結果、大分手が慣れてきてしまった。
しかし....打ち込むに従い肩こりと頭痛が酷くなり、今の最終段落はコンパクト形態で打っている。

慣れとは恐ろしいものだ。ポジティブ/ネガティブ双方の意味で。

(2010/12/03記)
 

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