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短期集中連載(笑)

−この物語は、フィクションである−


その121

木下隆雄「以前にご紹介したSuica定期券なんですけど、JR東日本によると発行券数100万枚を突破したそうです」

小椋良二「便利をエサに『煙草を吸うための真鍮製管状ツール』防止をはかるJRの意図は着実に実を結んでいるというわけですな」

木下「(ぎ、ぎくぅ....)しかしあのレポートでも誤動作が出てましたけど、どうやら利用者の方が慣らされてしまったようで、最近はあまり聞きませんね」

小椋「いえいえ、うちの近所なんかひどいもんですよ。あれってカード側のソレノイドに磁力線を通して発電、改札機の方に電波を飛ばす....って仕組みでしたよね。でも改札機が古いと感度が悪いようですね。おかげで今朝出てきたらこんなステッカーが」



木下「利用者依存のサービス軽視ですね....改札通過に平均的な歩行速度の人が要する時間が約0.8秒ですから、券投入口から出口までに0.6秒程度だとスムーズに乗客が改札を流れるという研究が確かJRでなされているはずでしたよ。それを今になってわざわざ渋滞を作りにかかってますか」

小椋「まったくです、けしからんですな....(ぴっ)あ、わたしはここで乗り換えですので」

木下「そうですか、それではまた(ぴっ)」

.....2人の会話を、ターミナル改札掛の門脇正秀(27)は黙って聴いていた・・・・

・・・・「....というわけで、乗客の不満は機械の性能に大きな格差があるのが原因だと思うのです」
「ふむふむ、なるほど」
月に一度の駅内連絡会議で、門脇は熱弁をふるった。上司もサービス向上のためとあってか、熱心に耳を傾けてくれている....らしい。

会議の後で、門脇は助役の千原に呼び止められた。
「門脇君、ちょっと」
「なんですか」
「先ほどの君の発言、なかなかに傾聴すべき点があった。どうだ、この問題について真剣に取り組んでみないか」
「はい。自分もそう思っていました。ですが具体的には....?」
「実は処理を高速化する新型改札機の開発プロジェクトが本社で極秘裏に進められている。君にはそのプロジェクトに参加してもらいたいのだが」
「は、はいっ!ありがとうございます....ですが、よろしいのですか?私はメカに関しては全くの素人ですが....」
「本社の方から君のような、利用者の側に立って仕事ができる現場の人間が欲しいといってきた。どうだ、明日からでも行ってみないか?」
「かしこまりました」

「君は最適なのだよ、そう、君のような人がね....」
千原助役は、スリムな門脇の後ろ姿を一瞥しながらつぶやいた。

翌日、本社に出向いた門脇は、来意を告げると突然目隠しをされ、車で拉致された。
たどり着いたのは、研修所と思われる建物だった。
そこで門脇を待っていたのは、想像を絶する特訓だった。
腕立て100回100本、30kg負荷でリストカール100回100本....門脇の上肢は徹底的にいじめぬかれた。
のみならず、3度の食事は極限まで切りつめられ、元々スリムな門脇の身体はさらに細く削ぎ落とされていった。
「こ、これが何か意味が....?」息も絶え絶えに、門脇は教官とおぼしき人物にたずねた。
「サービス向上のためだ」
能面のような表情で教官は答えた。・・・・

・・・・
木下隆雄「おはようございます」
小椋良二「ああ、おはようございます。お、ここの改札新しい機種になってますね」
木下「(がこがしゃっ、ぴっ)お、なかなか速いですね」
小椋「でもなんか騒音が結構大きいんですね、まあいいんですけど」
木下「私いつも思うんですけど、あの中身っていったいどうなっているんでしょうかね」
小椋「さあ、どうなんでしょうね....」

....中身では、門脇が奮闘していた。
覗き穴から券種を確認、Suica....電磁石を撃ち出す、券情報認識、正常、ゲートおよびアラームスイッチオン。この間0.32秒。
....今度は磁気券だ....差し込まれた券を読み取る、入場記録無し、ゲート閉鎖スイッチ、アラーム動作、券返却。この間0.28秒。リセット。
....お、通常券だ、券情報確認、正常、入場記録書込み、券面パンチ、ゲートオープン、券返却。この間0.36秒。平均0.32秒....今日も快調だ。
「さてと、さあびすさあびす....」

特訓の成果で、最厚部7cmまでスリムになった門脇は、機械の中でつぶやいた。

....その122へ続く(自動改札機をご利用ください)