先日本部のSEさんとお話しする機会があって、その中で、本部で主に導入するPCのメーカーはどこかと聞いたら「DELL」だった。
「あぁ、やっぱり安いからですね」と返したら「いや、DELLは壊れてもすぐに部品を取り寄せて修理できる。サポートに電話しても『じゃ、筐体開けてこことここを見て下さい』とか言ってくれるしね。メーカー製だと開けただけで保証修理対象外になるし」という答えが返ってきた。
....これを聞いて「へー?」と思った筆者。
以前にも述べたように、筆者の職場でもDELLを使っている。
確かにSE氏の仰ったようにBTOメーカーの先駆けであるから、ユーザーによるパーツ交換など当然想定内のメーカーであることは判る。
だが、486の時代からDELLを知っている筆者にとっては、その辺が曲者に思えるのだ。
当時からGATEWAY、MITAC、ACERなど、いわゆる日本での「DOS/V」黎明期に存在したIBM/PC-AT互換機メーカーの多くは、ATフォームファクターのパーツを組み合わせたBTOの形態を取っていたと思う。もちろんCompaqなどの独自設計をおこなう所も存在したが。
そんな中で、DELLはちょっと特異な存在だった。
AT互換機には違いなく、デバイスも共用部品を多用しているのだが....ストレージベイや電源ユニット、拡張バスなどのレイアウトが、微妙に市場に流通している部品と寸法を違えていたのだ。
もちろん今日のATX/BTXと違って、ATは自然発生的に存在したデファクトスタンダードだったので、規格自体がかなりユルいものだったことは、部品同士の相性問題(主にサイズ/ネジ位置で)が頻発していたことからも確かである。
そのような状況を、DELLをはじめいくつかの企業は利用したようなフシがある。
つまり、「大量生産品を流用して安価に製造、アップグレードは我が社の部品で」....ということのようだったのだ。
そんなわけで、元々メーカー製PCを買うつもりのない筆者だったので、メーカーの中で好き嫌いは特になかったのだが(除く目蜂M)、そんな中でも「互換機文化」という観点から、DELLはその企業姿勢にちと好感を持てないところであったのである。
かんたんに「筐体を開けろ」というメーカーのPCを、情報管理が重要な法人の本部で使用していてよいのか...という問題もあると思うのだが、そんなDELLのビジネスモデルは多分今も続いていて、それにまんまと乗っかっている(?)のが、少し可笑しかった。
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「DELLにもこんな時代があったのか」と感慨しきり |
さて、そんな「巧妙な粗製濫造路線」を突っ走るDELLだが、筆者も含めた"Keyboard Junkies"にとっては見逃せない存在でもある。それがこの「ALPSスイッチ」を使った「AT101W」だ。
「ALPSスイッチ」というと、筆者のアタマにはまずあの名機「IBM5576-001/002」が浮かぶ。
あの可愛らしいクリック感を持った、慣れれば超高速タイプが可能になるデバイスが、すなわちALPSスイッチ採用の所以と思い込んでいる筆者にとって、その高級メカをかつてDELLが採用していた...というところに、物凄いギャップを感じるのだ。
もっともALPSスイッチといっても多種多様あるようで、先代AT101に比べるとこのデバイスは見劣りがするという方もおられる。実際ヴィンテージキーボード市場では「ピンク軸」の先代AT101は、この黒軸AT101Wの実に3倍近い値がついていることがある。
また今日製造されている簡略化されたバージョン(orニセモノ)では、部品精度も組上げも雲泥の差があるとの報告がある。基本構造が複雑なスイッチであるだけに、その辺が操作性や耐久性に大きく影響しそうだというのは容易に想像できる所だが、その点に関してはこのキーボードのスイッチは本家ALPS製であり、問題はなさそうだ。
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DP/Nとラベルからは マレーシア製であることのみ判る |
DP/N(DELL Parts No.)をのぐ獣氏のサイトで調べても、該当する"0227KN"はいつごろの製品なのかが判らない。
ただ、"Winキー"のロゴがWindows95で採用された初期のデザインである所から、1995年から少なくともXPが登場する2001年までの間に製造された物ではないかと思われる。
ただ、バーコードと共に記載されているシリアルナンバー(?)中の"38843"がDP/Nとすると「タッチが悪いという情報あり」と記載があるのが少し気にかかる。
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Ctrlキーが小さいのが.... せめて左だけでももちっと大きければ |
配列は標準的な104キーだ。CtrlキーをサイズダウンしてWinキーx2とContextキーを割り込ませたような形となっている。もっとも、旧ロゴのAT101を見ると、CtrlとAltの間が開いているので、元々Ctrlがそれほど大きかったわけでは無いようにも見える。
問題のキータッチだが、5576のキーと比較するとクリック感がないタイプで、その上押下げ圧がかなり重く感じられる。
以前にここで取り上げたCherryMY白軸に似ているといえるかも知れない。
ただ、底付き感は明確にあるので、筆者のようにキーを叩くタイプの人間にとっては、白軸よりもリズムを作りやすい感じがする.....「叩いてる」という感じが明確な「タタタタ」という打鍵音も、それに寄与していると思うのだ。
どうやらAT101系の癖というか、いくつかのキーに動きの渋いところがあるのが気になる。
しかしこうしてこの文章を書いている間に、少しずつ動きが滑らかになってきたようにも感じられる。スムーザーを噴くと良くなるという情報もあるが、樹脂の痛みが気になるのでこのままでも良いのではないかと個人的には思っている。
日本で"BigFoot"と呼ばれる一連のシリーズでは後期のモデルと思われるので、時代に合わせて筐体も軽めになっているようだが、それでも重量自体は今日のK/Bと比べて結構あるし、本体の座りや剛性は悪くない感じだ。
ALPSスイッチマニアとも言うべき猛者の方々の間では、このキーボードのスイッチを、先代のDELL AT101などに採用されている「ピンク軸」に換装するのがデフォ(?)らしい。
筆者には黒軸でも十分良いタッチに思えるのだが、ピンク軸はそれを遙かに上回るということのようだ(とある方は「筆舌に尽しがたく、ただ『良い』としか表現しようがない」と記されている)。
しかし流石にそこまで手を入れようとする気はないし、筆者の今日の環境では部品取りのおぢゃんくを探すのも困難を極める。第一筆者の技術では「組上げては見たものの、改造前より悪くなった」ということになる可能性が高い気がする。
今しばらくは「あのDELLにもこんな時代があったのだ」という感慨をかみしめつつ、ALPS入門機として本機を愛でるにとどめたい。
(2010/11/28記)
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