REUTERS G81-3234
REUTERS G81-3234LPNUS(Cherry MY白軸)
製造元 Cherry
諸元
キー配列 US/104key
メカニズム Cherry MY白軸
メンブレン/板バネ+コイル
I/F PS/2
備考 Manufactured for REUTERS by Cherry
Junk Point 胸突き八丁までいかんでも
「コンピュータを使わない(使えない)数学者は意外に多い」という話をどこかで聞いたことがある。

真偽の程は判らないが、アマチュアの世界から眺めたプロフェッショナルの虚像と、実像との差異を示す例と言えるだろうか。

筆者は割と細かい作業が中心の職種で、周囲の人から手先が器用だと思われているフシがある。しかし実際は細かい作業をすると決まってパーキンソン症候群かと思えるほど手が震えるし、計量だっていくつも量るとまちまちだ(をい)。

ま、それは個人の資質によるところであるにしても、周囲のイメージと違って遙かに力仕事が多いというのもまた事実だ。

栄養摂取の全てを輸液製剤で行っている患者さんなどが1ヶ月分をお持ち帰りになる場合、その総重量は優に50kgを超えることがままある。筆者はこれを倉庫から窓口まで担いで走ったりする。
筆者などは部門の全業務を一人で行っているのでまだいい(?)のだが、大きな医療機関になると分業制が徹底していて、新人は1年間軟膏練りと輸液運び....なんて所もあるそうだ。
そんな職場であったら、おそらく筆者は1年と保たないであろう(実際そうしてふるい落としていくみたいだが)。

CherryMY白軸
押し込むに従い重くなる
....ま、それはともかくとして、筆者も時には、他の業種の方々の作業環境を色々と(特に情報処理という側面から)想像してみたりする。

そんな筆者の周囲に居ないジャンルのプロフェッショナルが「ライター」あるいは「ジャーナリスト」と呼ばれる物書きを生業とする業種の方々である。

いや、筆者はかつては、そうした人々と付き合いがあるにはあった。
だが時代はまだ「インターネット」が一般に知られる以前の頃だったし、筆者周囲の物書きさんはそうした中でも特に「IT化」と無縁な昔ながらの手書きライターばかりだった。

時は移ろい、筆者宅に情報機器と鍵盤が溢れかえり、デジタルドキュメントが常識となった今日、そうした人々が仕事にどのようなツール....というか筆者の興味からするとどのような入力デバイスを使っているのか、大いに興味があるところだ。

ロイターのロゴ
(テレックスのイメージ?)
以前からこのコーナーに書いているが、筆者が想像する「物書きのプロ」の道具としてのキーボードの特性というと、

・接点機構や駆動系の耐久性がある
・キータッチが軽く、長時間の操作でも疲れない
・操作のリズムを作りやすい

といったところが挙げられると思う。
ここから導かれる選択として、東プレのキャパシティブやCherryのメカニカルスイッチあたりに帰結するのは当然....と思っていた。

そうした筆者の想像から大きく外れていたのが、この独Cherry社製・ロイター通信社仕様の、出自としては正に異論を挟む余地のない「プロフェッショナル仕様」キーボードだ。

裏面ラベル
その機能的特性は、筆者が先に書いたものと大きく異なっている。

スイッチ機構はCherry社製の業務用キーボードには珍しいメンブレンスイッチだ。
著名なキーボード解説サイトを見ると、今日のメンブレンスイッチのキーボードと違い、このMY白軸と呼ばれるスイッチはラバードームではなく、板バネとコイルスプリングを組み合わせた機構を持っている。

筆者所有のこの個体は、キーがかなり重い。それも、押し込むに従い押下げ圧が増していくような感触だ。
言うまでもなく入手時は中古品だったので、ゴミが詰まってこんな動きになっているのかと思ったぐらいだ。

だがキートップを外してみてもキレイに掃除されていたし、またラバードームではないので、経年劣化により堅くなるということはないと思われる。
ということは、これは新品の頃とあまり違わない、元々のこのキーボードの感触ということになる。
チルトスタンド
ラバー足付き/起こす時割れるかと思うほど堅い
当初筆者はこのキーボードを、他のIBMバックリングスプリング系キーボードや、RealForce、あるいはマジェスタッチといったキーボードと同じように「底突きまで打ち抜く」感覚でタイプしていた。
なので最後の段階でそれこそ等比級数的に増加する押下げ圧によって、手に著しく打鍵の負担を感じていた。

だがこの文章を書いたり、様々なサイトを調べているうちに、どうやらこのメカを採用しているキーボードの叩き方は、それでは正しくないということに今しがた気づき始めた。

実はこのキーボード、ストローク自体はかなり深いのだが、コンタクトポイントは筆者が想像する位置よりもかなり浅いところ、ストローク全体の半分までもいかない辺りにあり、しかもそのポイントまでは非常に軽い押下げ圧で到達することができるのだ。
筆者が頑張ってぎゅうぎゅう押し込んでいた(あ、ちなみにキー動作そのものは軋んだりせず、底突きまで至ってスムーズです。念のため)動作の半分以上は、無駄な労力だったというわけだ。

中々プロっぽい
....でも意識して打たないとやっぱ重い(^^;
そのことを念頭に置いて、底突きさせないよう、キー上を指を滑らせるように操作してみると、これは実にスムーズに入力できるキーボードであることがわかる。

しかも底突きさせないから、打鍵音が他のキーボードに比べて格段に静かだ。

特質に合わせて使用すれば、軽快に操作できる上に静か。

多くの人間が頭脳労働に携わる環境に、極めて向いている入力ツールであると思う。

だが筆者のように複数の、しかも機構の全く違うキーボードを使い分けているユーザーだと、つい他のモノと同じようにキーを「打ち込んで」しまう。

優れたキーボードである事は言えると思うのだが、筆者所有のキーボード群の中では余りにその性格が突出していて、ちょっと扱いに困る一品であると言えよう。


(2009/11/28記)
 

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