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短期集中連載(笑)

−この物語は、フィクションである−


その251

頭上に雲ひとつない秋空が広がる、ブロードウェイの屋上。
先ほどの破壊の爪跡も生々しいその脇に、いつもの博士(56)と木郷君(27)、組長の湯浅(53)の姿があった。

その3人に囲まれた薄井(28)....だけ、いつもとちょっと違った。
今や普段着と化しているハーマイオニーの黒衣だが、今日はその上にロングのレースのエプロンを着て、同じ材質の飾りが入ったカチューシャをつけている。
そして枝毛がちな長く艶のない黒髪は、大きな黄色いリボンで束ねられ、胸元には赤い半球形のブローチが飾られていた。

そして、痩せこけた彼女の背中には....稲妻型をした可変翼が、2機のベクターノズル付ラムジェットエンジンと共に黄金に輝いている。
「・・・・走りましたね。博士....」
木郷君が言った。
「何を言っとるのかね木郷君。人間が単独で飛行するための力学的課題を追求するとこのようになるのじゃよ。見たまえこのロングエプロン、これが表面波動効果によって空力抵抗を極限まで抑制するんじゃ。さらにこのカチューシャ、水平面方向の整流と操舵をこのサイズで実現したのは、おそらく世界初じゃろう。一見無駄に見えるこの巨大なリボン、これこそラムジェットの吸気効率を最大限に高めるためのエアロダイナミック・ステルスブースターじゃ!そしてCrystal-5aからの情報をキャッチしての情報解析と、地形解析を兼ねる下面ポッドがこのブローチで....」

立て板に玉が転がり落ちるが如き説明の濁流を吐き続ける博士の目は明らかに逝っていた。

「わ、わかりましたわかりました....ですがこの....ホルダーはちょっと...」
「....私もそう思います....」

どこにあるのか分からない胸を寄せて上げるかのように、恥ずかしそうに両手を前で組む薄井のメイド服姿の身体は....格子状のベルトに被い尽くされていた。
いわゆる「亀甲縛り」型の、ぷれい用レザー製ボンテージテディのようである。

「そうですよ博士....博士の技術を持ってすれば、パクり元原作みたく腰ベルトだけで済んだんじゃ....」
「すまんな民子さん。貴女の安全を思えばこその処置なんじゃ。君も寛骨圧迫骨折で、若くして子供が生めぬ身体になりたくはないじゃろう?我慢してくれんかね....?」
「.....はぁ.....はい.....」
「だったら何も薄井さんに頼まなくても....博士が自分で行けばいいじゃないですか」
「ワシもそうしたいところなんじゃが....ワシの身体では、この人体単体飛行システム『最終兵器彼女給Ver.2.11』の最大推力に耐えられんのじゃよ」
「は、はぁ....」
「実のところを言うとな、最初はあずさクンに頼むつもりだったんじゃよ。彼女も恐るべきなりきり能力を持っておるしな。だが彼女があのとおりじゃからのう。仕方なしに民子さんにお願いするんじゃよ」

当のあずさは....屋上の一隅でまだくるくる回っている。

「だけど....薄井さんだって身体が丈夫な訳では...。いやむしろ..」
「大丈夫じゃ。彼女はゴーグルオンで無敵の女給さんに変身できるんじゃ。それとも何かね、『むしろ』君が代わりになった方が...ということかね、木郷君?」
「わ、私は....」

....”メイド服が着られる”....ちょっと嬉しそうな表情になった木郷君だったが、慌てて否定した。
「よし、それでは行くとするか。目標は方位195度、距離約1100km。さ、木郷君、組長。民子さんにいっしょに連れてってもらうぞ」
「な、何だって?!」
「マジですか博士...!」
「マジもマジ、大マジじゃよ。言ったではないか、この『ぐるぐる眼鏡Ver2.0』をつければ....」

博士が薄井の顔に、『ぐるぐる眼鏡Ver2.0』を装着したとたん。

「はいっ!では出発しますよ!!しっかり掴まってください皆さんッ!!どこ触ってるんですか博士!!木郷さん、そこでジタバタするんじゃないッ!!ほら、組長さんも早く!!!」

....豹変した薄井の怪力でフロントネック気味に締め付けられ、息も絶え絶えの博士と木郷君を見て、組長は後ずさりした。
「お、俺は....き、機械とコスなら何でも任せとけ。でも飛行機だけは勘弁な....」

(コングかね、あんたは....)

酸欠気味の顔色のまま声を出すこともかなわず、博士は心の中でツッコんだ。

「さ、では行きますよ!さもん・ざ・しるひーど!!」

轟音と共に離陸した3人は、太陽の輝く南空へ向けてあっという間に姿を消した。

「....俺、船で行こっと」
青空になびくひとすじの飛行機雲を仰ぎ見ながら、組長が呟いた。

同じころ。
階下では相沢晴日(63)が電話をかけていた。
「あ、東海汽船さんですか?えーと....急ですけど今日10時出発の父島行きを」・・・・

....その252へ続く(・・・・)