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短期集中連載(笑)

−この物語は、フィクションである−


その249

・・・・ブロードウェイ屋上に通じる階段。
かつてここは博士たちと『もこもこ』の激闘で破壊され、最近ようやく修復が完了したばかりだった。
その「戦いの地」に再び臨む、博士(56)と木郷君(27)。....

「....と、なんで君がおるのかね、あずさ君?」
「やだドギーったら....いつもみたいにスワンって呼んで」
「....?」

・・・・特撮は特撮でも、どうやら東映が苦手らしい木郷君であった。

「で.....どうすんです博士?ここだってどうせトラップがあるんでしょ?」
「もちろんじゃ」
「とりあえずなんとか解除しないと....」
「無駄じゃよ」
「は?」
「無駄だといったんじゃよ木郷君。どのみちあれだけの装置を作った犯人じゃ、おそらく何重にも罠を仕掛けておるのじゃろう。だとしたら正面突破あるのみじゃよ」
「しかし....」
「それにじゃ木郷君、昨日から色々装置を解析しておると、どうも解除者たる我々に挑戦してきておるような節がある。ということはじゃ、おそらくトラップを正面突破してもすぐには射出イベントが発生せず、我々に時間が与えられるはずじゃ」
「どうしてそこまで....なにか根拠でもあるんですか?」
「ワシならそうする」
「・・・・」

"つまり....博士が博士と戦うわけか....それはそれで面白いし、もし僕が成功すれば...それは博士を超えたということになるわけか?!"

木郷君の思考が訳のわからない方向へ暴走するのを無視するかのように、博士は木郷君を小突いた。
「ほれ、まずは第一陣じゃよ、先遣隊」
「....やっぱ私ですか?万が一にも殺傷能力のある罠だと....」
「安心しろ、骨は拾ってやる」
「・・・・わかりました。焼結!」
「ないって、木郷君」

気分だけ宇宙刑事の木郷君が、ドアノブと蝶番めがけて、量子化切断機『一心太助』を振り下ろす。

轟音とともに、鋼鉄のドアが倒れこんだ。
と同時に、屋上の制御装置と思しき物体がけたたましいビープ音を吐き始めた。

「行くぞ、木郷君!あずさクン!」
「はい、博士!」
「ろじゃー!」
「・・・・」
あずさの敬礼を無視して、2人がダッシュする。

制御装置は、何の変哲もないパソコンだった。
画面上には、スプレッドシートのようなマトリクスに数値が書き込まれ、ダイアログが制御開放停止コードパスの入力を促している。

「博士!何ですか、これ....?!」
「おそらくはパスはなんらかの数値じゃろう....どうやらこのマトリクスの計算で導き出される数値を入れれば解除できると書いてある....」
「まずいですよ博士!あと1分しかありません!!」
「十分じゃよ、木郷君。ゼロやマイナスじゃないんじゃから」

....木郷君のビデオをこっそり見ていた博士であった。

マシンのような正確さと速さで、機関銃のように数値を打ち込んでいく博士。
マトリクスの右下に計算結果が導かれるまでに、わずか20秒だった。

「よし、これじゃ」
博士が、ダイアログに数値を入力する。

"Pass Error....Authentication denied"

「あ、あれ....?」
「は、はかせ....!」
「おっかしいなぁ....どこも間違えたはずはないのに....」
改めて入力されたセルをチェックするが、どこも間違っていない。

「....まさか?!」
博士が演算装置のカバーを強引に外した。

システムボードとおぼしき基盤の中央に、一際輝く黄金のヒートスプレッダを持つチップには、こう書いてあった。

"Intel Pentium"
"P5-90MHz"

「ばぐぺんかい・・・」

茫然自失の博士と木郷君。時間は30秒を残すのみ!!
その横から、あずさが割って入った。
「スワン....!しかしどうやって...」
「任せて!」
....あずさが取り出したのは.....ソロバンだった。

凄まじい勢いで、あずさが玉を弾く。
「も、もう間に合わないですよ....」
「大丈夫!ゼロやマイナスじゃないんだから!」
「・・・・」

固唾を飲んで見守る博士と木郷君の前で、あずさは10秒を残して計算を終了した。「制御開放停止パス、入力!」

....画面が切り替わり、それまでレッドアラートだったのが、青画面になった。
「せ、成功か.....」
「凄いです!流石スワンさん!!まーべらす!!」
....すっかりテツになり切って、木郷君が叫んだ。その瞬間。

画面上にメッセージが表示された。

"Good Luck"

「・・・・は?」

3人が目を合わせる.....「伏せろ!!」

きゅどおおおぉぉ〜ん...

衝撃波が炸裂し、地球の自転による遠心力でワイヤーのくびきを脱した『星』は、超音速で蒼穹の彼方に吸い込まれていった。

....数分後。
2人が瓦礫の下から這い出した。
「いててて・・・・やっちまいましたね博士」
「・・・・まあここまでは脚本どおりぢゃよ」

「どこがです....結局回収できなかったじゃないですか」
「まあまあ木郷君、こないだ打ち上げたのは可燃ゴミだったじゃろう。今回はガラス、それもちゃんと大気圏突入にも耐えられるようなかなり丈夫なモンじゃ。あとは荷電粒子加速器の残滓を追跡して見つければよいということじゃよ」
「....なんか取ってつけたような話ですが....まあいいでしょう。とりあえず捜索のためのアイテムを取りに店に戻りますか」
「そうじゃな」
「で....あそこで踊ってる人はどうします」

....木郷君が指差した先では、衝撃波の直撃を食らってズタボロの白鳥スワンあずさが、アラベスクのポーズでくるくる回っていた。
「ほっとこう」

またしても崩れ落ちた階段を、博士と木郷君は階下へと向かった。...

....その250へ続く(・・・・)