変な話Indexへ戻る

短期集中連載(笑)

−この物語は、フィクションである−


その232


5・15 練習試合 下鶴間高校グラウンド 観衆:10人

 
葛野高校 0 0 0 0 0 0 1 0 1 2 3 10
下鶴間高 0 0 0 0 0 0 1 3 X 4 6 4

葛野高校:中島・林田−上山
下鶴間高:高坊1−高坊2
1〜6回 中島が豪速の弓弾くストレートで三振の山を築くが、下鶴高のピッチャーも譲らず予想もしなかった投手戦となる
7回表 この回先頭の麻原が打席で瞑想に入り、気味悪くなって用心しすぎた投手が四球で歩かせる。弾道を正確に計算した竹内の送りバントが決まり、麻原を二塁に置いて新沼の超音速スイングが炸裂。衝撃波で吹っ飛ばされた内野陣が打球を見失う間に麻原が悠々生還して葛高が先制する
7回裏 中島の制球に乱れが出始め、3連続四球。なんとか2者連続三振に切って取るが、次の打者が振り逃げ。同点に追いつかれる
8回裏 スタミナの切れた中島がまたも3連続四球、救援した林田が左中間に大飛球を打たれる。正確に落下地点を予測した竹内が、体力不足のために間に合わず大きく後ろにそらす間に走者一掃で下鶴高逆転
9回表 またも林田に泣きついた反井田が代打。ナメてかかった投手が投じたインハイを避けようとした反井田の打棒が爆発し打球はライト場外へ。1点返すがまたも後続なし


・・・瘴気立ち込めるアーケードの下を、上山勝男(17)はうなだれながら歩いていた。

「まだダメだ、こんなんじゃ....」

久しぶりに練習が休みの日、勝男は都内に来ていた。新しい用具を買いに落合に来たついでの寄り道である。

....「いいじゃんかよ、とりあえず試合になれば」
先日の試合の後で、同期の林田(17)が言った。
「フレディもよく投げてたしさ、なあに大丈夫、夏の予選までには
甲子園に行ける
ようになってるって」

(....んなワケねーだろっ!!)

とりあえず、一発の破壊力、というか「一発芸」を持ったメンバーであることは判った。だがそのパフォーマンスはあまりにムラがありすぎる。これではマトモな試合にならない。いや実際になってない。
そうはいっても...

「とりあえず今のメンバーで予選を勝ち抜くしかないな....もう他にめぼしい助っ人もいないし」
....この期に及んで未だに甲子園の土を踏む事を諦めていない勝男も、相当並外れた人間であることは確かである。

「....とにかく、どんな方法でもいいからヤツラをもう少し鍛えなければ....そしてなんとか甲子園目指して...」「もしもし、そこのクリリン君」

フロアの片隅から誰かが勝男を呼び止めている
「・・・・は?僕ですか?」
「そうそうそこの君、今君は何といった?」

粗大ゴミ置き場と見まがうほどに散乱した言迷の機械と人間が食してもいいのかどうか判然としない食品の山に埋もれたカウンターから、博士(56)がこちらを見ていた。
「い、いえ別に....」
本能的に危険を察知した勝男は知らんぷりをして通り過ぎようとした。

「ワシの目と耳はゴマかせんぞ。君は若干2年生でありながら存亡の危機にある野球部の主将、それもキャッチャーじゃな。なんとか他の部からメンバーをかき集めたものの練習試合でボロ負け、嗚呼遙かなる甲子園....というわけじゃな」
「ど、どうしてそれを.....」
「なあに、ワシには全てお見通しじゃよ」
博士はアゴを撫でた。
(単にパターンを言っただけじゃのにまさか本当じゃとは....)

「博士、またこんなに散らかして....薄井さんが戻ってきたら落雷の直撃ですよ。最近『ぐるぐる眼鏡』がお気に入りなんですから...」
ちょうど助手の木郷君(27)がお昼から帰ってきた。
「まあいいじゃないか木郷君、ワシは今この悩める野球少年広瀬新太郎君(17)の相談に乗っておったところじゃ」
「あ、あの自分は....」
「とにかくじゃ、新太郎君はいま自分の野球部が存亡の危機にあるを真剣に憂い、乾坤一擲の賭けに出るべくワシの所に相談に来たのじゃ。すなわち

『どんなヒレツな手段を使ってでも甲子園に行く』

とな」

(誰だよ広瀬って.....それにオレんなこと言ってないぞ....)
「あ、あの....自分はそんなつもりじゃ...」
「皆までいうな、新太郎君。君のそのポンセのように燃える目を見ればわかるぞ...その内に秘めたる熱い闘志が」
「は、はあ...」
「目的を達成するために最善の手段を尽くす、その点においては科学の使徒たる我らも同じ。安心してくれ給え、ワシの技術の全てをつぎ込んで君たちの願いをかなえてくれよう、なあ木郷君」
「は、はぁ....」
木郷君は答えた。が内心ではツッコミを入れていた。
(『目的を達成するに手段を選ばず、手段のために目的を忘れる』でしょ....)
「.....まあしかしそういうことなら僕も協力させてもらいますけど....でも博士、博士は野球のルールを知ってるんですか?」
「バカにするでないぞ木郷君、ワシはこれでも若い頃スラッガーでならしたもんじゃぞ。松竹ロビンスの小鶴とはよくホームラン競争をしたもんじゃ」
「一世代以上違いますよ、博士....」
「そんなことは問題ではない。要はワシが野球に関しても玄人はだしということじゃ」
「(ホントかなぁ....)ですけど博士、野球の場合用具のサイズや材質が細かく決められていて、むやみやたらと新素材を使う事はできないんですよ、知ってました?」
「......」
「あの....博士?」
「も、もちろんじゃよ木郷君。そんなことも知らないで野球なぞできんじゃろ....要は技術云々ではなく、いかにそれを運用するかなのじゃ。これは科学の根本じゃぞ木郷君」
「いつにもなくマトモなこと言ってますね」
いかにも胡散臭そうな顔で木郷君が応えた。
「とにかくじゃ、我々の総力を挙げて応援させてもらうから、君は大船に乗った気で練習に励み給え。用意ができたら君の所へ使用方法の説明がてらうかがうとしよう。。それでいいな、新太郎君?」
「は、はあ、よろしくお願いします.....」

博士と木郷君の漫才を呆然と聞いていた勝男は、イキナリ話を振られて反射的に返事をしてしまった。
(やっぱり....またよからぬことを考えてるな)
木郷君が心の中で呟いた。大体なんで野球用具の使用方法をわざわざ野球部員に説明しに行かねばならんのか。
「よし、話は決まった。さっそく準備に入るぞ木郷君」
「....はいはい」

(ああ....この人が今回の犠牲者なのね....)
防空頭巾を被り、機動隊盾に身を隠した鵜野森あずさ(22)が、柱の陰から瞳に涙の粒を膨らませながらつぶやいた。
どうやら2重パロコスプレのつもりらしい。・・・・

....その233へ続く(女子部員を放置ぷれいしたい)