短期集中連載(笑)
葛野高校:中島・林田−上山 下鶴間高:高坊1−高坊2
・・・瘴気立ち込めるアーケードの下を、上山勝男(17)はうなだれながら歩いていた。 「まだダメだ、こんなんじゃ....」 久しぶりに練習が休みの日、勝男は都内に来ていた。新しい用具を買いに落合に来たついでの寄り道である。 ....「いいじゃんかよ、とりあえず試合になれば」 先日の試合の後で、同期の林田(17)が言った。 「フレディもよく投げてたしさ、なあに大丈夫、夏の予選までには 甲子園に行ける ようになってるって」 (....んなワケねーだろっ!!) とりあえず、一発の破壊力、というか「一発芸」を持ったメンバーであることは判った。だがそのパフォーマンスはあまりにムラがありすぎる。これではマトモな試合にならない。いや実際になってない。 そうはいっても... 「とりあえず今のメンバーで予選を勝ち抜くしかないな....もう他にめぼしい助っ人もいないし」 ....この期に及んで未だに甲子園の土を踏む事を諦めていない勝男も、相当並外れた人間であることは確かである。 「....とにかく、どんな方法でもいいからヤツラをもう少し鍛えなければ....そしてなんとか甲子園目指して...」「もしもし、そこのクリリン君」 フロアの片隅から誰かが勝男を呼び止めている 「・・・・は?僕ですか?」 「そうそうそこの君、今君は何といった?」 粗大ゴミ置き場と見まがうほどに散乱した言迷の機械と人間が食してもいいのかどうか判然としない食品の山に埋もれたカウンターから、博士(56)がこちらを見ていた。 「い、いえ別に....」 本能的に危険を察知した勝男は知らんぷりをして通り過ぎようとした。 「ワシの目と耳はゴマかせんぞ。君は若干2年生でありながら存亡の危機にある野球部の主将、それもキャッチャーじゃな。なんとか他の部からメンバーをかき集めたものの練習試合でボロ負け、嗚呼遙かなる甲子園....というわけじゃな」 「ど、どうしてそれを.....」 「なあに、ワシには全てお見通しじゃよ」 博士はアゴを撫でた。 (単にパターンを言っただけじゃのにまさか本当じゃとは....) 「博士、またこんなに散らかして....薄井さんが戻ってきたら落雷の直撃ですよ。最近『ぐるぐる眼鏡』がお気に入りなんですから...」 ちょうど助手の木郷君(27)がお昼から帰ってきた。 「まあいいじゃないか木郷君、ワシは今この悩める野球少年広瀬新太郎君(17)の相談に乗っておったところじゃ」 「あ、あの自分は....」 「とにかくじゃ、新太郎君はいま自分の野球部が存亡の危機にあるを真剣に憂い、乾坤一擲の賭けに出るべくワシの所に相談に来たのじゃ。すなわち 『どんなヒレツな手段を使ってでも甲子園に行く』 とな」 (誰だよ広瀬って.....それにオレんなこと言ってないぞ....) 「あ、あの....自分はそんなつもりじゃ...」 「皆までいうな、新太郎君。君のそのポンセのように燃える目を見ればわかるぞ...その内に秘めたる熱い闘志が」 「は、はあ...」 「目的を達成するために最善の手段を尽くす、その点においては科学の使徒たる我らも同じ。安心してくれ給え、ワシの技術の全てをつぎ込んで君たちの願いをかなえてくれよう、なあ木郷君」 「は、はぁ....」 木郷君は答えた。が内心ではツッコミを入れていた。 (『目的を達成するに手段を選ばず、手段のために目的を忘れる』でしょ....) 「.....まあしかしそういうことなら僕も協力させてもらいますけど....でも博士、博士は野球のルールを知ってるんですか?」 「バカにするでないぞ木郷君、ワシはこれでも若い頃スラッガーでならしたもんじゃぞ。松竹ロビンスの小鶴とはよくホームラン競争をしたもんじゃ」 「一世代以上違いますよ、博士....」 「そんなことは問題ではない。要はワシが野球に関しても玄人はだしということじゃ」 「(ホントかなぁ....)ですけど博士、野球の場合用具のサイズや材質が細かく決められていて、むやみやたらと新素材を使う事はできないんですよ、知ってました?」 「......」 「あの....博士?」 「も、もちろんじゃよ木郷君。そんなことも知らないで野球なぞできんじゃろ....要は技術云々ではなく、いかにそれを運用するかなのじゃ。これは科学の根本じゃぞ木郷君」 「いつにもなくマトモなこと言ってますね」 いかにも胡散臭そうな顔で木郷君が応えた。 「とにかくじゃ、我々の総力を挙げて応援させてもらうから、君は大船に乗った気で練習に励み給え。用意ができたら君の所へ使用方法の説明がてらうかがうとしよう。。それでいいな、新太郎君?」 「は、はあ、よろしくお願いします.....」 博士と木郷君の漫才を呆然と聞いていた勝男は、イキナリ話を振られて反射的に返事をしてしまった。 (やっぱり....またよからぬことを考えてるな) 木郷君が心の中で呟いた。大体なんで野球用具の使用方法をわざわざ野球部員に説明しに行かねばならんのか。 「よし、話は決まった。さっそく準備に入るぞ木郷君」 「....はいはい」 (ああ....この人が今回の犠牲者なのね....) 防空頭巾を被り、機動隊盾に身を隠した鵜野森あずさ(22)が、柱の陰から瞳に涙の粒を膨らませながらつぶやいた。 どうやら2重パロコスプレのつもりらしい。・・・・ |