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短期集中連載(笑)

−この物語は、フィクションである−


その230

・・・・すでに葉桜となった並木の下を、上山勝男(17)は同僚の林田(17)と共に歩いていた。

「....そうか、だめだったか」
「当たり前だよおまえは勝男。ウチが弱小どころかベタ降りの安牌ってことは小学生でも知ってるしな、いくら『いきなりレギュラーッスよいかがですオニイサン(はぁと)』なんて誘っても、わざわざ恥をかきに来るヤツなんか居ないって」
「参ったな....俺たち5人じゃあな....」

勝男は頭を抱えた。
もう夏の甲子園県予選は間近に迫っている。だがこの調子では棄権せざるを得ない。いや、それどころか、今年新入部員がいなければ部そのものが消滅する可能性すらあるのだ。

「こうなったら、あの手しかないな」
「あの手?」
林田の言葉に、勝男が聞き返した。
「他の部に助っ人を頼むんだよ。そして甲子園を目指す。野球漫画の王道だろ王道」
「....」

勝男は呆気に取られた。
助っ人といっても、そこは県下最低のロクデナシ校である。他の部にしたところでマトモな人材がいるとは思えない。

「....まあ....頭数だけでも揃えなければどうにもならないが....」
「もう目星はつけてあるんだ。今日放課後にグラウンドに来るように伝えてある」
「ま、まぢかよ....しかし....」
「心配すんな。とにかくあいつらスゲェよ。あんなヤツラ見たことねえよ」

”スゲェって....ウチの学校にそんなヤツいたか?”
林田の言葉に心の中でツッコミを入れながら、とりあえずはその連中に会ってみることにした。....

....放課後のグラウンドに、9つの影が延びていた。
うち5人は野球のユニフォーム姿だったが、あとの4人はてんでバラバラの格好をしている。
「というわけで、こいつらが集まってくれた。紹介するぜ勝男、こいつがバドミントン部の新沼だ」
「ちわッス」
勝男の前に立ったのは、ポロシャツ短パンのやせた男だった。
「こいつの打撃速度は常識を超えていてな、おぃ新沼、やってみてくれ」
「わかった」

いきなりラケットの素振りを始めた新沼の横から、林田がどこから持ってきたのかシャトルをトスした。

それは一瞬の出来事だった。
ラケットの軌跡が勝男の目に残像として残る間に、シャトルが地面に突き刺さる。

しゅぱああああああああああんんんんんんんんっっっ

直後に轟音が炸裂した。

「....どうだスゲェだろ?」
「ああ....何だ今のは....」
キンキンいっている耳を押さえながら勝男は応えた。
「こいつの打撃速度は音速を超えてるってな、いつしかついたアダ名が『ハイスピードジェシー』」
「....?」
勝男は小首をかしげた。
時折しも2004年だ。がそれはともかく....

「新沼クン、野球をやったことはあるのか?」
「いや、ない。だけど打つのは同じようなもんだろ?バット貸してくれよ」
「あ、ああ....」
勝男が差し出したバットを手にバッターボックスに立った新沼。
「お、おいその構えは....」
「いいんだよこれで、俺は。ほらボール投げてみてくれよ」
バットをバドミントンのように正眼に構えた新沼に、マウンドにたった勝男が一球を投じた。直後。

どっこおおおおおおおおおおんんんんんんんんっっっ
爆発物に引火したかのような轟音がホームベース上にとどろいた。
ラケットよろしく振り下ろした新沼のバットから衝撃波が発生したのだ。

「す、スゲェ....」
勝男は驚愕した。このスイングスピードなら、軽くスタンド入りだろう....

「ぽとっ」

勝男の目の前に、ひょろ球が力なく落下した。
「....?」
「ああ、その超音速ってのは初速でな。すぐに失速するのが弱点といえば弱点なんだ。まあ気にするな」
アングリ口を開けたままの勝男に林田が言った。

....気を取り直した勝男が、次のレゲエのおじさんのような男に声をかけた。
「えーと....キミは?」
「ああ、こいつは陸上部の麻原。100mを10秒前半で走るという脅威の高校生アスリートだ。日本記録を塗り替えるのもそう遠くないだろうという逸材だ。仲間には『暁の超特急・飯島』といわれている」

”誰だ飯島って....だいたい暁の超特急は....”
「おい麻原、ちょっと走ってみろ」
「・・・・」
黙って頷いた麻原は、バッターボックスから一塁めがけて走り出した。
その背後に砂塵が舞い上がる。
アッと言うまもなく、ベースを駆け抜けた。恐るべき俊足だ。
「スゲェ....こいつはホントにすげえよ。ボテボテのゴロなら全部ヒットだ」
「だろだろ?で出塁したら全部盗塁で生還....ってわけだ」
「なるほど....おーい麻原クン、俺がピッチャーやるから、盗塁してみてくれ」
「・・・・」
マウンドに立つ上山。セットポジションから投球のモーションに入る。その刹那。

「・・・・」
「おーい....」
麻原は一塁ベース上で、座禅を組んでいる。

「あーあいつな、ああやって時々瞑想に入るんだ。自分の最大パフォーマンスを発揮するためらしい。スゲエだろ?」
「....」
「それからこいつは物象部物理班の竹内。仲間うちじゃ『歩く天測儀』と呼ばれてる。こいつは瞬時に物体運動の軌跡を計算できるんだ。だから外野守備にはもってこいだ。まあスポーツは全くダメだがそれは気にするな。....それからこっちは料理部の奥薗。手抜きで効率よく動いて無駄がない。鍋掴みでキャッチをさせたら右に出るものはいないって言うぜ。まあ守備要員だな。
あと、元野球部の反井田。中学まで野球をしていたんだ。パワーヒッターだが、足が遅くて万年補欠の代打要員で『カリブの怪人』の異名を持っていたそうだ。高校入学時に足を痛めて野球をあきらめ、今は帰宅部なんだが、オレのダチってことで今回は来てくれたって訳だ....っておい、聞いてるか?」

固まったままの勝男を林田がこづいた。
”よくもこれだけろくでもないヤツラを....”
二の譜がつけない勝男に、小太りで球転がしの大球のような反井田がおずおずと話しかけた。
「あ、あの....自分医者から『野球はダメだ』と言われて諦めてたんスけど....でもやっぱ野球が好きなんス。お願いです、もう一度やらしてください。お願いしま..」「あーもうわかったわかった、何でもいいから今日から練習だ、目指せ浜スタだ甲子園だっ」
「おーっ」

ヤケクソになった勝男と、寄せ集め集団の意外にも気合の入ったの雄叫びが夕焼け空にこだまするのであった。....

....『博士ショップ』は、中野ブロードウェイにある。

「のう民子さん、ワシらの出番はまだかのう」
「何をおっしゃってるんですか博士、それより早くこの期限切れの高麗人参エキスを出してきてくださいっ!今日は燃えるゴミの日ですよっ!!」・・・・


....その231へ続く(女子部員とぷれいしたい)