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短期集中連載(笑)

−この物語は、フィクションである−


その202


・・・・「もうじきくるわね。ちゃんと挨拶するんですよ」
「・・・・うん」
諸岡謙二(4)は母に気のない返事をした。

確かに、彼には興味のないことだった。
内弁慶な彼のことを心配した母の希望だったから。

「こんにちはー」
「あ、来たみたい。はーい」
玄関先に出ると、若い女性に連れられた、諸岡と同じ年格好の女の子がいた。
「諸岡さんですね?今日からお世話になります」
「いえいえ、こちらこそ」
「加奈さん、ごあいさつしなさい」
「こんにちは、かなです。よろしくおねがいしますー」
加奈と名乗ったその女の子の視線を受けて、諸岡は慌てて母の後ろに隠れた。
「あらあら、この子ったら....」
「大丈夫ですよおかあさん、大体の子が最初はそういう反応ですから。すぐになれますよ。じゃ、何かあったらご連絡ください。加奈、こちらは謙二くん。よろしくね」
「はーい。けんじくん、なにしてあそぶ?」
「・・・・」
謙二は恥ずかしそうに奥の間へ走っていった。加奈が靴を脱いで後を追いかける。....

....一緒になって1ヶ月もしないうちに、謙二と加奈は打ち解けた。
年は同じだが、さっぱりした性格の加奈は、謙二にとってお姉さんのような存在になった。
どこへ行くにも一緒だった。朝起きて、ご飯を食べて、幼稚園に行って、おやつを食べて、おもちゃで遊んで、お風呂に入って....

....「ねえ、加奈ちゃんはどうしておちんちんがついてないの?」
「ねえ、どうして謙ちゃんはおちんちんがついてるの?」
「....おとこのこだから」
「かなは、おんなのこだから....」
「ふーん....」
「へぇ.....」
お風呂の中で、お互いの股間をまじまじと見詰め合う二人。
なんだかわからないけど、謙二の胸はドキドキしていた。....

.....時は過ぎ去り、8度目の春が来た。
先日小学校を卒業した2人。今日を最後に.... ....「加奈ちゃん、もう今日行っちゃうの?」
「....うん。『お引越し』だから....」
「そう....」
日のあたるバルコニーで、2人並んで話していた。
「加奈ちゃん、お迎えが来たわよ」
「あ、はーい」
「今日までありがとうね、加奈ちゃん」
加奈は謙二に向かって、改まった調子で応えた。
「いえ、こちらこそ今日までありがとうございました。今後ともよろしくおねがいします」
「....」
大人びた加奈の言葉に、何も言えない謙二だった。

「じゃあ、さようなら」
迎えの車に乗り込む加奈が、最後に謙二にかけた言葉と微笑み。
謙二は、何かかけがえのないものを失ったようで、それが胸の奥に小さな棘となって突き刺さったままだった。....


"「....というわけで、従来の『労働』の基準解釈がかなり狭められるというのが今回の法曹家の一致した見解です。各都道府県の青少年健全育成条例および未成年者就労に関する規定との擦りあわせに関してはいささか議論の余地がありますが、我々としては『家族』の範疇で処理できる事例がかなり増えるのではないかと考えております」・・・・

....「時限立法との絡みもあるからな。ようやくそこまで踏み込んだ議論が行われるようになったわけだ。我々が10年前から研究を進めていたことが....」・・・・

....その203へ続く(かえりみち)