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短期集中連載(笑)

−この物語は、フィクションである−


その201

玄関のチャイムが鳴った。
諸岡謙二(24)は読みかけの本を棚にしまった。
ドアの覗き窓の外に、いつもの笑顔が立っている。

「きちゃった。いい?」
「あ、いいよ....散らかってるけど」
「おじゃましまーす」

雲出和美(26)はベージュのパンプスを脱ぐと、諸岡の部屋へと入っていった。


"女性を迎えるときの部屋は、片付き過ぎていても気持ちを圧迫します。勿論いわゆる『男やもめに....』は論外。小物やゴミはしっかり整理して、アクセントになるアイテムを適度に散らして配置し、『心地よい散らかり具合』を演出しましょう"

「何か飲む?」
「んーいいっかな。それよりさあ、今日は何の日だか知ってる?」
「....知ってるよ。『和美が初めてガーターつけた日』でしょ?」
「え、ええーっ何それ...?」
「ほら、ランドマークのマリアネリで選んだやつ、覚えてるでしょ?」
「あ、あれね...そうだけど....初めて謙二んちにお泊りした日でもあるのよ。覚えてる?」
「当然さ。忘れるわけがない」

"記念日対策はこまめに記録をとっても女性の緻密さには敵いません。どうしてもわからない時は強気に出てみましょう。相手が白状したら話を合わせてあげること。"

「....ね、ちょっとお祝いしたくない?どこかで食事とか」
「いいねぇ。でもさ、俺作ってもいいよ」
「えーホント...?」
「うん。その間にシャワーでも浴びてくれば?」
「わかった。ありがとう」....

....シャワーの後で備え置きのスウェットに着替えた和美がダイニングに来た。
テーブルの上にはビーフシチューとシーフードサラダ、そしてオリーブオイルで残っていたバケットを揚げたラスクがいい香りを立てている。
「すっごーい!今作ってくれたの、これ?」
「ああ....何にもなかったんでありあわせだけど」
「んーん、外に行くより全然おいしそう、いっただっきまーす」
「じゃ、まず乾杯」

"女性に対しても手料理は有効なアイテム、ただし『あなたのために』的押し付けや薀蓄は引かれます。日常をさりげなく演出して、でも非日常のスパイスも少し利かせて"

....食事の後でソファに2人並んでコーヒーを飲みながら、TVを見たり、その日あったことを話したり....

....ふと、会話が途切れる。
和美がカップをテーブルに置き、諸岡を見つめた。
「....」
諸岡の腕が和美の背後に回る。重なる2人の顔。
和美の身体が柔らかに諸岡に倒れかかった。

抱きとめる腕に力を込めながら、先日来考えていることをいつ和美に切り出そうか、諸岡は迷っていた。....

"....「さて、みんな集まったところではじめよう。今日のテーマは例の時限立法の期間延長に伴う対策だが、その前にそれに関連して保険制度の改正と労働基準法の一部追補があった。この点に関して杉浦君、君のほうから報告してくれ」

「わかりました。まず労働基準法の件ですが....」"
・・・・

....その202へ続く(封じこめられた光と影)