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短期集中連載(笑)

−この物語は、フィクションである−


その187

・・・・大河原泰造(47)とその配下であるやりツボ獣『もこもこ』の追撃を、博士(56)と木郷君(27)はかろうじて振り切った。
ていうか、屋上に出るドアに『もこもこ』がつっかかえてしまったので余裕だった。

「....博士....あれは一体誰なんです?」
「大河原君かね、ワシとここのテナントを争って敗れた男じゃ。彼はあそこに沖縄料理店を出す夢を持っておったようじゃが」
「はぁ....そうなんですか...」
「それよりもじゃ、あのへんちくりんなデカブツを何とかしな....」
階段を駆け下りて来た博士が言いかけたその時。

ごごごぉーん
フロア突き当たりのジャンク屋から白煙が上がった。
「だ、だいじょうぶかっ」「だからLi-ionパックの改造は気をつけろと...」「そんなことよりおい〜消火器だ早く....」

「あらあ〜なんか派手にやってますね、博士」
「うむ、爆発は科学のロマンじゃ....」

博士が言い終わるか終わらないかのそのとき。
ぷしゅしゅしゅしゅしゅ〜
「だ、ダレだCO2ボンベに穴あけたのはっ」「す、すみませんちょっと手が滑ってドリルが..」「窓開けろ窓!窒息するぞ!!」
向かいのガンショップでも悲鳴が上がった。

「な、なにをやってんだか....」
木郷君が言うまもなく、次の惨劇が起こった。

どんがらがっしゃ〜ん
「う、うわわ、やっと組んだ1/12ザクがあああっ」 「す、すみませえ〜んっ」
同じフロアにある『まんだらげ』から悲鳴が上がり、廊下には完全破壊された赤いモビルスーツの破片が散乱している。
今日は水無月妙子姿の鵜野森あずさが慌てて部品を集めようとしてつまづき、頭部部品にとどめのダイビングボディプレスをお見舞いした。

「な、なんかおかしくないですか....博士?」
「うむ....妙ちんは地キャラでやっておるような気もするが....偶然にしては騒ぎが多すぎるようじゃな」

あたりを見回してみると、あちらこちらの店でなにやら騒ぎが起こっている。
3軒むこうのネイルアートショップでは、バイトの女の子がディスプレイを蹴倒してお客が全身ポップアートと化している。
階段をはさんで反対側のコスプレ店では、お客のタバコから火が落ち、運悪くそこにあった「深道(弟)ジャケット」に満載された花火が暴発し、夏の浜辺状態である。....

どうやら『やりツボ時空』の影響が全館に及んでいるらしい。
しかし....

「我々にはなにも起こりませんね」
「うむ、そうじゃのう」
....己らが元々やりであることに気が付かない博士と木郷君であった。

2人は店に戻って来た。
レジには眼鏡をはずしたままの薄井幸子(28)がいた。
「まったくっ!!お二人とも勝手に店を飛び出してどこへいってたんですっ?!あれから私は大変だったんです...」
「も、元に戻ってますよ博士」
「かまわん、その眼鏡でもかけとけっ」
木郷君がヒステリックに喚き散らす薄井の顔に『ぐるぐる眼鏡』をかけた。
とたんにやりツボ時空と干渉が発生した。

「あ、あれ....私どうして....あ、博士に木郷さん...おかえりなさい」

「おう、またちょっと出てくるから、留守を頼んだぞ、民子さん」

「は、はいわかりました....(幸子ですけど....)」

「....よし、木郷君はこれを持っていくのじゃ」

「なんですかこのうまか棒みたいなのは」

「携帯型時空固化切断機『一心太助』じゃ。手元のスイッチを押すと攻撃対象のサイズにあった長さの切断フィールドが出現する」
「なるほど。特撮ヒーローのなれの果てということで」

....なぜかその方面に詳しい木郷君の頭上で鈍い爆発音が響き、コンクリートの細かい破片が落ちてきた。
屋上では、『もこもこ』が顔面から大砲をぶっ放して階下への道を作ろうとしている。

階段を駆け上がりながら、博士は言った。
「詳しく説明しておる時間がない。あの鬼瓦がここをぶち壊す前に一撃で決めるんじゃ、木郷君」
「わかりました、一つだけお聞きしたいのですが、博士」
「なんじゃ?」
「私は焼結しなくていいんですか?」
「何を言っとるのかね、君は....?」

....屋上に出た2人の周囲を、派手な着弾が出迎えた。
前方回転受身をとりながら左右に飛びのく。
「博士....!」
「なんじゃっ?!ワシなら無事じゃぞ!」
「いえそうでなくて....子どものころのロケット花火合戦を思い出しますね!」
「君は....」博士の至近でまたしても砲弾が爆裂した。

「き、木郷君....!!遊んでおらんと早く仕留めんか?!」

「よ、よし....れえざあぶれえどっ」
「手を怪我するぞ、木郷君」
「だってボタンをおすだけじゃカッコよくないじゃないですか」
「ほれ、迫っておるぞ!!」
「わかってますよ。魚屋ぶるうふらっしゅっ!!」

ヴンッ。

木郷君が『一心太助』をもこもこめがけて一閃した。
もこもこは時空固化切断機の前に、もろくも崩れ去る....

「....なにも起こりませんね。博士....」
「お、おかしいなぁ....あ、そうか?!」
「なんです?博士」
「『一心太助』は常空間限定仕様なんじゃよ」
「とすると、ここやりツボ時空では....」
「そう、君のご明察の通り...」
「あははは、そういうオチか」

ちゅどーん

直撃弾を食らった木郷君は、サンプラザ方向へと消し飛んだ。

「どうだ博士、俺の戦力は....?貴様もここでおしまいだ」
「さて、それはどうかな?」
「強がりも大概にしろ。いけ!もこもこ」
「もこー」
巨大な石の固まりが博士を踏み潰そうとする!

ぷすっ

ぷしゅしゅしゅしゅしゅしゅしゅしゅしゅしゅしゅしゅしゅしゅしゅしゅしゅう〜〜〜....

「むうむう」

博士がもこもこの足の裏を持っていたドライバで一突きすると、たちまちのうちに空気の抜けた巨石像がしぼみ、なかから元の桃豚...羊...?が現れた。

「お、おのれどうして....?」
「あれがハリボテだということは最初からわかっておったのじゃ。ワシが非破壊検査用携帯スキャナ『竹輪の心ボシ』を持ち歩いておるのを知らなかったようじゃな。それにしてもひどい安普請じゃのう....大河原君」
「き、貴様に何がわかる....貴様のせいで俺は...おれは...」
「ワシを逆恨みする気持ちもわからんではないぞ。だがあの時のコイントスは神に誓って公明正大じゃった。ワシはあの時のことがいまでも気になっておってのう....」
「ふん、口ではなんとでも....」
「それが証拠に、バックヤードとして使っておるスペース、あそこはいつでも厨房設備が組めるようになっておるのじゃよ。どうじゃ大河原君、ここはひとつ改めて店をやってみるつもりはないか」
「ほ、本当か....だがあんたの店が狭くなるんじゃ....」
「なに、かまわんよ。あんたこそあの狭いスペースででよければ喜んで協力させてもらおう」
「は、博士....」
「うむ、これで一件落着じゃ」
黒煙が漂う中で、手を取り合う大河原と博士であった。....

....ブロードウェイの一角に、時ならぬ行列が出現した。
大河原の店「ちんくわー」がオープンしてからというもの、お昼時になるといつもこうだ。
「しかし『軒先貸して母屋取られ』とはこのことですね、博士」
「何、いいではないか。行列の連中が店の中を覗いておるぞ。ひょっとしてこの中から固定客が生まれるということも....」
「ないです」
ミミスターをかじりながら、全身包帯を巻かれて綾波状態の木郷君がそっけない返事を返した。
「それにしても意外といいとこがあるんですね、博士も....それにインチキなしで勝負するなんて、僕、ちょっと見直しました」
「そうじゃろう。コインの方には何もインチキをしなかったぞ」
「コインの....方....?」
「床には『ドラえもんの足』を引いておったがの」
「ひ、ひっでぇ....神に誓ってたんじゃなかったのですか...?」
「ワシは科学の使徒じゃぞ。おりもせぬ神への誓いを破ったところで何を恥じることがあろう?」
「....」
「まあそれは置くとして、異時空での使用に関して問題があることが判明したわけじゃのう、この『一心太助』は。これからの課題が見えてきたわけじゃ」
「常空間だって使えるかどうか....(ぴっ)」

しゅばばばばっ

木郷君の不用意な操作で発生した切断フィールドが、天井の配管を突き破り、降り注ぐ水柱が行列を直撃した。
「それみたまえ。ちゃんと動くであろうが」
「は、博士....そんなことより早く止めないと....!!」


....『博士ショップ』は、中野ブロードウェイにある。

....その188へ続く(パロの元型)