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短期集中連載(笑)

−この物語は、フィクションである−


その186

・・・・店の奥に引っ込んだ博士(56)が、数分後なにやら老酒の甕のようなものを抱えて出て来た。
「....またその妙ちきりんなモノで何をやらかそうというんです、博士?」
木郷君(27)が不安いっぱいの顔で博士にたずねた。
「どうして君はそう斜に構えたものの見方をするのかね、木郷君....これが今回の捜索に必須のアイテム、さっきのGABA受容体親和性賦活フィールドセンサーを携帯化したものじゃ。名づけて....」
「....『章魚つぼEvolutionW』ですか....?」
「どうしてわかったのかね?」
「・・・・」

「とにかく説明より見てみるがよい、その『ぐるぐる眼鏡』をこのセンサーに近づけてくれ給え、木郷君」
「はいはい....」木郷君が眼鏡をかけた顔を『タコエボW』に近づけたその瞬間。

すぼぼぼぼぼぼぼ

唐突に容器の先端から現れた八本足の軟体動物アンドロイドが黒煙を噴射し、木郷君の顔面を直撃した。

(げはごほげほ)は、はか(げはごほげほ)せ...(げはごほげほ)これは(げはごほげほ)いった(げはごほげほ)い....(げはごほげほ)
「見てのとおりではないかね、木郷君。この『タコエボW』はフィールドに接触すると黒煙を噴射するのじゃ。なかなか見事なもんじゃろう」
「いや、わた(げはごほげほ)しが聞きたいのは(げはごほげほ)なんで章魚が墨を噴くのかと....」
「君は水族館に行ったことがないのかね?章魚が墨を噴くのは章魚の有史以来当然のことではないか」
(ごほげほ)....もういいです....(げほ)

....木郷君が『タコエボW』を捧げ持って先陣を切り、博士がその背後から続いた。
章魚君が墨を噴くのはどうもある閾値を超えた段階らしく、律義にも発生源と思われる方角をいちいち向いて知らせてくれる。

「....どうやらこの建物の上の方らしいですね。博士」
「うむ、それにしてもおかしいと思わんかね。木郷君」
「なにがです?」
「GABA受容体親和性賦活フィールド発生装置はわしが特許出願中の特殊技術じゃぞ。それをどうして他の人間が知っておるのかのう....もしや産業スパイが?」
「んな大層な人が狙う訳ないでしょう、博士如きの発明なんか....」
「な、なんじゃと」
「とにかくそれは置くとしても....『やりツボ名人』だってずっと店頭で販売しているわけでしょう?世の中には物好きがいないとも限りませんし」
「....君の言うことはいちいちトゲがあるのう...じゃがまあいいだろう。それよりも問題は、もしフィールド発生源がこの上にあるとすると、民子さんだけにその影響が現れるのはおかしくないかね?」
「....そういえばそうですね。ひょっとしてうちが狙い撃ちされているとか」
「ふむ....そういわれてもワシには身に覚えが....」
(あり過ぎてわかんない、と)
階段を登りながら木郷君は思った。....

....2人は行き着くところまで行ってしまった。
中野の町を見晴るかす、ここはブロードウェイの屋上である。
「....とりあえずここのようですが」
「何もないところじゃのう.....あ、あれ?」
博士の視線が一点に固定された。
「木郷君....あんなところに『イナ○"の物置』なんてあったかのう...?」
「さ、さあ....何度かここへは実験できてますよね?私は覚えが....」
「怪しいぞ。早速捜索じゃ」
「わ、私が行くんですか博士」
「安心しろ木郷君。ここが正念場だ、骨は拾ってやる」
「あ〜たは鶴田浩二かい....」

頭の中でサブちゃんのコブシが渦巻く木郷君は、いつもの通り半ばヤケ気味に見慣れない物置へと歩を進めた。一応ノックする。返事がない....
「じゃ、開けますよ....」
木郷君がドアを開け放ったその瞬間。


すぼぼぼぼぼぼぼ



捧げ持った『タコエボW』が室内めがけて猛煙を噴射した。

(ごほげほ)あきさみよー(ごほげほ)

悲鳴とともに、黒煙の中から大男が姿をあらわした。
暑苦しい唇にツルツルの頭は、木郷君が抱いている『タコエボW』を巨大化させたような感じである。季節の割に照りがきつくて暑いせいか、縞縞パンツ一丁姿だ。

「お、大河原君....」
どうやら博士には既知の人物のようだ。

「見つかってしまったようだな、流石といっておこう....だが勝負はこれからだ。積年の怨み、ここで晴らしてくれるわっ!」
「ま、まて大河原君。話を聞け話を....あれは神に誓って正当な勝負...」「問答無用!いけ!わがやりツボ獣『もこもこ』!!悪を成敗するのだ!!」
「むーむー」
桃色のブタとも羊ともつかない動物?....が、博士の足元にちょこちょことやってきて、キックをくれた。
「な、何をする」博士がかうんたー気味に蹴りかえすと、『もこもこ』はイナ○"物置の端まで吹っ飛ばされた。
「おのれ....こうなれば奥の手だ....『やりツボ時空』、発生」
大河原と呼ばれた男が、壁に立てかけてあった長い杖のようなものを振ると、全長30cmにも満たない『もこもこ』が突然巨大化し、物置を突き破った。どうやらこれが、博士の発明を基に改良?を加えた装置らしい。
博士の眼前に、全高10mはあろうかと思われる巨大なシーサーが出現した。
「もこー」
やりツボ時空では、やりツボ獣は100倍の力を発揮できるのだ。

「まずいぞ木郷君....あれは『阿』の方じゃぞ。見たまえ足元に子どもがついておる。子育て時期の母は神経が尖っておるからのう。あれは手強いぞ!!....一時撤退じゃ。銃を取れアニー」
「は、はぁ....」

のどかな春の昼下がりであった。・・・・

....その187へ続く(ひょっとすると三輪明宏?)