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短期集中連載(笑)

−この物語は、フィクションである−


その163

”この世界の人間はみんな退屈しているのさ。だから退屈しのぎに戦争ばかりしている・・・・・”
(第一次コーラス戦役を前に、ナイト・オブ・ゴールド格納庫でアマテラスがラキシスに語った言葉)

・・・・予告の時刻をかなり過ぎている。
司令席でコンソールを睨みながら、カニンガムは苛立ちを隠せずにいた。
「副官、索敵の方はどうか?」
「いえ、光学索敵機能が擾乱を受けておりますが今の所反応ありません」
副官のゴダードが応えた。

どうもおかしい。
今日まで常勝を重ねてきた彼らだが、いずれもこの時代の戦闘にふさわしく正々堂々真っ向からの勝負で敵をなで斬ってきた。だが今回彼らの相対する敵はどうも一筋縄ではいかないようである。

「遅いですなぁ」

『後方支援』あるいは『見届け役』としてお気楽な立場でこの場にいると思われる他機から、緊張感のない通信が入った。

「必ず現われるはずです。今しばらく待つといたしましょう」
感情を押し殺してカニンガムが返信した。一応味方という事になっているが、状況次第でどう変わることか....そんな彼らの存在も目障りだ。
何もかも気に入らなかった。

かつて、化学兵器を使用して個人対個人で行われていた戦闘は、気の遠くなるような長い年月を経て、無数の乗組員を有する巨大な有機戦闘兵器同志の戦いに発展していった。その過程で化学兵器は廃れ、代わりに物理的な巨大破壊兵器が開発され、今日の戦闘の主力に使用されている。索敵機能・運動機能も飛躍的に向上した。少し前までの年代では社会機構の主権争いのための兵器の大規模集団戦が多く行われていたが、その変遷とともにまた再び「兵器対兵器」の一騎打ちが中心となっていた。つまりは....暇つぶしなのだ。

カニンガムの率いる戦闘兵器は、長大な切断器を縦横に操り、その名を広く知られていた。だが、今回相対する敵もその方面でかなりの技術を持つという。やがては互いにぶつかるは必然といわれた雄敵であった。

....「来ました!距離60、9時の方角です!光線の加減で索敵機能が著しく減退していますが間違いありません!今上陸しました」
「よし、武装保護解除」
切断機の外装が外され、そのまま地上に落下する。その時....

「司令!敵から通信です。通常モードでスクランブルフリーです」
「読んでみろ」
「そ、それが....」
「どうした?構わん、読め」
「は....『You lose.』以上です」
「何だと!」
「し、司令!」
「言ってくれたな!戦闘開始!敵との距離を詰めろ!」
「し、しかし....」
「敵はまだ戦闘態勢に入っておらん!先手必勝だ!!」
「了解しました!」
カニンガムの機が敵機目指して突進する。
その瞬間。

敵機が地上から跳躍した。
「....?!...光線が!」
索敵機能が敵機を見失ったその瞬間。

機体上部に激しい衝撃が加わった。
「め、メインコンピュータルーム被弾!!エネルギー供給システムストール、生命維持装置に重大な損傷があります!」
敵機は戦闘状態に入っていないとみせかけて跳躍し、光線のハレーションでカニンガム機の索敵機能が一時的に失調した瞬間を狙い、こともあろうに推進/航行システムを爆撃装置として使用したのだ。

「....や、やられたか....」

カニンガムは司令室のコンソールで、自機が均衡を失って地上に倒れ伏すのを、他人事のように眺めていた。
「だが....」
「後方支援がくれば、まだ我らにも生存のチャンスがある....」
勝負がついたとみて後方に去ろうとする敵機をぼんやり眺めながらカニンガムが思った瞬間。
「み、味方が....!」
先ほどの衝撃を遥かに上回る数の攻撃が、背部から加えられた。
カニンガム隊は、その乗組員の多くが何が起ったのかを把握できないまま、生命維持装置の停止と同時に、戦闘兵器と運命を共にした。
「やはりな....『留意すべきは前面の敵より背後の味方』、太古の昔より何ら変わる所が無い....だが....我々は一体何のために....」
薄れ行く意識の中でカニンガムは納得と疑問の入り交じった自問自答をおこなった。
それが、彼の最期だった。

「やはりな....『前面の敵より背後の味方』『戦闘はまず心理から』か....これは留め置くべき点だ。しかし....我々は一体何のために戦うのであろうか....?」
有史以来の疑問を心に抱きつつ、後に『剣豪』『希代の兵法者』としてその名を知られる事になる男は、暮れなずむ瀬戸内の海の只中を、小船に揺られていくのであった。...


....その164へ続く(おりんぴっくの顔と顔〜♪)