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短期集中連載(笑)

−この物語は、フィクションである−


その159


・・・・『スローパンチャー』ミッキーがそれまでのようにパンチを繰り出すが、14匹めのその相手にはまったく当たらない。
そのうち、相手の鋭い眼光に射すくめられたようにミッキーが後退する。コーナーに詰まったミッキー!
「まずい、まずいぞ!....『オリジナル』じゃ木郷君!!早くこれを....この超音速拳加速デバイス『克巳の素』を食わせるのじゃ!」
「あ、あたまがヘンになりそう....」
「ええい、何をやっておる!貸せ!!木郷君!!」
博士(56)がミッキーにそのエサのようなモノを与えると、それまで怯えていたミッキーが突如として不適な笑み(?)を浮かべ、騎馬立ちのネズミの前に歩を進めると前屈立ち逆突きの構えを取った。
寸分も動かず、隙をうかがう両者....克巳(?)が先に動いた!!

「なご!ぉ..(ちぇすと...っっっ)」
ぱしぃぃぃんんんんっ
「ちゅっ!


どこぉぉぉんんっ
大音響が厨房にこだました。
ステンレスの調理台に克巳がめり込んだまま動かない。
「ちゅーっ!(猫の分際でその領域に立ったことは誉めてやろう。だがお前のいる場所は、我々が既に二千年前に通過した場所だッッ!!)」

「お、おのれオリジナルめ....奴は進化しておるぞ....こうなったら仕方がない、最終兵器『ちうちうまうす3号・格闘士牙刃』の投入じゃ、急げ木郷君!!」
「私はどこ〜〜?ココはダレ〜〜?」
....ついに木郷君(27)も壊れた。

博士は構わず、木郷君の下げていたケージからもう一匹のネズミを取り出した。

中国四千年の武術を使う烈士鼠に対峙する格闘士鼠。
じりじりと間合いが詰まる。
互いの制空権が接したその瞬間!

突きッ!!
蹴りッ!!
ヒジッ!!
ヒザッ!!
頭突きッ!!

ありとあらゆる攻撃が目にも止まらぬ速さで打ち出され、それを受け、返すっッ!!
最早、人間の速さではないッ!!(当たり前だ)
超高速の攻防は無限に続くかと思われた。

だが....

烈士の牙が、格闘士の頚動脈を捉えた!
格闘士の首から、鮮血が迸る!!
「ちゅー....(勝負あったな...お前の命はあと90秒)」
「ちゅーっ(なあに、その間に勝負をつけるさ、いくぜっ!)」
格闘士が跳躍する。
飛び散る血に、烈士の視界がさえぎられたその瞬間!!

格闘士の腕....(前足?)....が烈士の首に巻きついた。
「スリーパー....ホールド....」
博士が呟いた。シンプル極まりない技。だが完璧に極まれば脱出不可能....そして....「美しい.....」
2人(匹)の肉体から滴り落ちる血と汗が、押さえ気味の照明に映えてキラキラと光る。

「....終わりにしよう....」
静かに博士が立ち上がると、放心状態の木郷君の手を取り、極小の素子を握らせた。

ちゅど〜ん   ちゅど〜ん
ちゅど〜ん ちゅど〜ん     ちゅど〜ん
  ちゅど〜ん   ちゅど〜ん  
  ちゅど〜ん ちゅど〜ん     ちゅど〜ん

....厨房のそこかしこで、小爆発が発生した。
下水管が破裂し、業務用洗剤のボトルから濃縮液が飛び散る。
野菜置場からも、冷蔵庫の背後からも噴煙が上がった。
もちろん、決戦中の烈士と格闘士も運命を共にした。......

「さ、撤収撤収」
あっさり博士は言った。
「....博士....」
「ん?何じゃ?木郷君」
例によって例のごとくの爆発で、正気を取り戻した木郷君がシンプル極まりない質問を博士に浴びせた。
「....今のはなんですか....?」
「何ですかって、決っておろうが。自爆装置じゃよ。いやぁ中々いい仕合いじゃったのう木郷君」
「....んなもんがあるなら最初から使えばよかったじゃないですか?!」
「店を破壊しかねんからのう、できれば使いたくなかったんじゃが....でもまあいいじゃろう、責任は装置のスイッチを押した木郷君、君にあるのじゃからのう」
「き、きったねぇ....ん?....」木郷君はあることに気づいてニヤリと笑った。
「博士....あの烈士一族....あれ、博士の開発した『ちうちうまうす2号』でしょう...」
「さ、さぁ....記憶にないな」
「そんなこといって、博士....」木郷君は店内に歩を進めた。
「お、おい木郷君....」
「ほらあった」木郷君が指差す先に『博士』と書かれたウェイティングリストがあった。
「何か変だと思ったんですよねぇ....博士はあれを『オリジナル』だなんて呼んでるし....。それに初めて来たという割にはウェイトレスさんの制服にやたらと詳しいし、それにほら、この日って『2号』でブロードウェイの壁をブチ抜いた日じゃありませんか。あの日博士はそいつを連れてどこかへ出かけたでしょう?あれから僕、『2号』を見てないですもん。『コントローラで呼べば地球の反対側にいても地殻突き破って還ってくる』なんて言ってた割には戻った様子もないし、これはなにやら実験の匂いがするなと」
「う"....妙なところに勘の利く奴じゃのう、君は....まあいいじゃろう、そういうわけで木郷君、君とワシとは一蓮托生というわけじゃ。あの店長にも身元は明かしてないわけだし、今我々がなすべきことはわかっておろうな」
「はいはい、ダッシュで離脱ですね!」
「そういうことじゃっ」
.....相変わらず逃げ足だけはヂヂイと思えない博士であった。・・・・

「結局博士、”ぐるぐる眼鏡”の実験は未遂に終わりましたね」
「君は実験を犯罪か何かと間違えておるのかね...そんなことはないぞ、ほれ今このとおり、被験者がここにおるではないか。のう民子さん」

「(幸子ですけど....)....え....私....ですか....」

薄井幸子(28)は少し尻込みしたが、ハーマイオニーのコスプレには眼鏡も似合うかもしれない。そう思ってかけてみた。

「どうじゃ、民子さん?」
「どうもこうもございませんわ」
「民子...さん?」
「失礼ですけど、わたくし、薄井幸子と申します。民子などという名前ではございません....それにしてもこのお店もずいぶんと汚れておりますわね。そうだ、今日は皆さんと掃除をいたしましょう。はいっ!博士!!ボサッとしてないで箒と雑巾を持ってきなさい!!木郷さん!!貴方は奥の倉庫を速やかに片付けてくださいね!!!」
「・・・・」

”ぐるぐる眼鏡”の力を得て、どういうわけか突如として有能かつ厳格なメイドさん....というよりは執事に変身した薄井にこき使われ、夜中まで掃除をさせられる2人であった。....

....『博士ショップ』は、中野ブロードウェイにある。



....その160へ続く(※この物語はフィクションです。
実在の人物・団体・仮想動物とは一切関係がありません。
くどいようですけど。)