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短期集中連載(笑)

−この物語は、フィクションである−


その156

・・・・「お待たせしました。本日の日替わりランチと秀作オムレツですね。ごゆっくりどうぞ」
「・・・・見たか?!見たか?!!木郷君!!」
「....何をです?...」
「君には観察眼というものがないのかね木郷君....見給えあのハイウェストな紫の袴を!似非女学生が着ておるような偽物とは違うぞ、あれこそ正統の袴姿、正しき大和撫子の女給仕じゃ!....裾丈が少し短いような気もするがそこはそれ、黒のタイツに編み上げショートブーツがチラリで絶妙のバランスじゃのう...それに見給え、矢絣の上衣に白の襷、紫の蝶リボンじゃぞ!!確かわしの調査では襷も紫だったように記憶しておるが、あれは階級章なのかのぅ....あぁそれに、あの襟元に挟んだ伝票を恥じらい気味にそっと差し出すあの所作、明治浪漫の萌え萌え全開じゃっ!!のう木郷君、あの清らかな制服の下には、どのような燃える情熱と熱い肢体を秘めておるのかのう...見てみたいとは思わんかね、木郷君....木郷君?」

「....料理が冷めますよ。博士」
秀作オムレツをほとんど平らげた木郷君(27)が気のない返事を返した。
「....博士が『やりツボ名人-メイドさんVer.”ぐるぐるメガネ”』の実験するっていうからついて来てみれば、なんですかここは....別に近所のガストでもよかったじゃないですか」
「君に夢はないのかね....『最萌えトーナメント』にエントリーすらしない店に行ってどうする?」
「だったら吉祥寺のアンミラとか...」
「君は大味毛唐文化に被れておるな。太平洋が好きなのかね....まあいい、そんなことより、あのふっくらした袴の中身はどうなっておるのかのう...和装らしく襦袢...『じゅばチラ』....うーむだがタイツにブーツだからのう...ガーター...『ガタチラ』...これも捨て難いのう...しかしあの膨らみかたからするとドロワーズ...『ドロチラ』いや...プリンスパンツ...『プリチラ』ということも考えられるぞ...」

....博士(56)の推理、いや妄想が暴走する目の前で炭焼珈琲をお替わりし、爪楊枝で挟まった竜田揚げの鳥肉をほじりながら木郷君が言った。

「どうでもいいんですけど博士、『チラ』が目的でいらしたんなら別に以前試した『ドラえもんの足』の方が安全確実しかもお手軽じゃないですか....?」

「君は本質を理解しておらんようだな。『給仕・礼儀作法・ドジ』は女給仕さんの3大能力パラメータじゃぞ。強引な外力で目的を達成させても意味はないんじゃよ.....”下げたお皿の山を片手にお店の中を甲斐甲斐しく動き回る眼鏡っ娘の女給仕さん、厨房へ戻ろうとして来客に気づき元気に『いらっしゃいませー』と声をかける....その瞬間、なんでもない店の段差につんのめって顔面から床に突っ込む....。放り出されお皿の山が割れる音が店内に響き渡る....宙に投げ出された脚の根元から覗く『xxチラ』....。床に座り込んだまま慌てて袴の裾を押え、右手でアタマをコツンしながら『すみませぇーんお客様ぁ〜』....どうじゃこれこそ女給仕さんの完成形じゃ、そうじゃろう、木郷君....こ、こらこら最後まで話を聞け話を」

伝票をつかんで立ち上ろうとした木郷君を博士が押えた。
「というわけでじゃ、この発明の成否には全国5千万の制服萌えヲの夢と希望がかかっとるんじゃ。君の責任は重いぞ、木郷君」
「一体この恥辱的実験のどこに私が関わっているというのですか?」
「ハッキリものを言うやつじゃなぁ....だが先日の『課験者権』を賭けた勝負を忘れたとは言わせんぞ」
「う"....」

.....それは一部でつとに有名な『地味なメイドさんゲー』を、博士が無断で対戦型ゲームに改変したバージョンで行われた勝負だった。1人のメイドさんを巡って2人の旦那様がDPを競うというワケの判らない設定になっている。

「君のDP15,000も初心者としてはなかなかじゃったのう。君も女給仕萌え旦那様の素質は十分とみたぞ」
「博士が異常なだけですよ....あのアルゴリズムで500,000は有り得ません」
「ともかく、君はワシに負けたのじゃからな。約束は守ってもらうぞ。ほれ、あそこにいる見習いっぽい女給仕さんにこの眼鏡をかけてもらってこい」
「ま、まぢでですか....」
「当然じゃ。これであの駆け出しさんは大脳皮質内のGABA受容体親和度が約27%上昇してドジのパラメーターが+10アップするはず。そこで我々がオーダーに呼べばまず十中八九そこの床埋込コンセントに突っかかって、真正面からダイヴしてくれるじゃろう。ほれいけ」
「んな恥ずかしい事お願いできませんよ....」
「女給仕さん装備変更には体力消費が伴うもんじゃよ。それとも君は約束を反故にするつもりかね?何なら後日に権利行使を先送りしてもよいのじゃが....」
「わ、わかりましたよ....」
渋々木郷君が立ち上ったその瞬間。

「きゃっ。」がらがっちゃ〜んっ

その見習いウェイトレス、井原千奈(19)は手にした食器を放り出して床にしりもちをついた。
「ををっ、パニエで膨らますとは掟破りじゃっ!しかも白パンティに黒ストッキングとはやるもんじゃぞ。そうじゃないか、木郷君っ」
「人が見てますよ、博士....そこまで姑息な手段使って覗きたかったんですか」
「こ、こらこら....ワシはまだ何もやっとらんぞ...あの娘が勝手にズッこけたんじゃ」
「・・・・」疑わしそうな木郷君であった。

「ね、ねずみよっ....」
「また出たのか....こないだ駆除かけたばっかしなのに....」
「ウチに住んでるのは不死身よねぇ...」
「こ、こら....お客様に聞こえるぞ...早く片づけて...」


店長とおぼしき人物とウェイトレスの姿が交錯している。周りのお客も何事かと覗き込んでいた。

「....なんでしょうねぇ....ネズミが出るんですかこの店は...いくらコンセプトと料理で勝負しても、飲食業としての基本がなってないですね、博士」
「・・・・」
木郷君の言葉に反応せず、博士はなにやら考え込んでいる様子だ。
「はかせ、博士?」
「お、おう....」
「おう、じゃないですよ。どうしたんです?」
「い、いやちょっとな....そうかネズミか....。木郷君、ちょっと店長に話があるので来てくれんか」
「何です?タダメシにしろとでもゴネるつもりですか」
「馬鹿を言うでない。ちょっと仕事じゃ」
「....?」
席を立った博士の後を、首をかしげながらついていく木郷君だった。・・・・

....その157へ続く(トーナメント優勝は馬車道)