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短期集中連載(笑)

−この物語は、フィクションである−


その149

・・・・雲ひとつない秋空の日差しの下を、粛々と歩む4人連れがいた。
「博士ぇ〜、ちょっと休憩しましょうよぉ〜」
....私....もうだめです....


「なんじゃ木郷君....若いのに体力が無いのう。私が君ぐらいの歳の頃はリヤカーにくず鉄屋で拾った実験材料を山積みして引いておったぞ....あ、民子さんは疲れたじゃろう、リヤカーに乗っておるがいい」
....はい....そうさせていただきます....


「ず、ずるいですよ博士〜....それにしてもなんですかこのクソ重たい積荷は....この探査装置だけじゃこんなに重くないですよ....」

「知らんのか木郷君、これこそホンダの電機自転車『ラクーン』の向こうを張って開発した、エネルギー政策の未来を変えるという携帯型常温核融合炉つき自動リヤカー『後楽園』じゃ。宗一郎めはインチキ水素ディーゼル車を亜米利加にバカ高い値段で売りつけおったそうじゃが、今に見ておれ、私のはもっと....ふっふっふっ」

「本田先生はとっくに他界されてますよ....それに『見ておれ』という前に自走ぐらいするようにしてくださいよ」

「それがのう、炉を小型化するのに夢中になっとって駆動系を組上げるのをすっかり忘れとったんじゃよ、何、よいではないか、こうしてゲノム波動探知機『ブリキの太鼓』の電源になっとるんじゃから」

”(これの電源ならそれこそホンダの発電機で十分じゃないですか....)”木郷君は言いかけたが、口にしたのは別のことだった。

「それにしても博士、ただ闇雲に歩き回っても埒があかないんなじゃいですか?もっとこう、地道に聞き込みをするとか....」
「そこが素人の浅はかさというもんじゃよ、木郷君。通常人探しは失踪したと思われる地点から遠ざかるらせん状に聞き込みしていくのがセオリーじゃが、ペット探しの場合は逆にいなくなった地点からなるべく離れた位置、そうじゃな、そのペットの行動限界点から求心らせん状に探していくのが効率が良いのじゃ」

「すごーい、ホントに専門家みたいですね」
ルリが博士をちょっと見直したようだ。
「ですけど博士、何もルリちゃんの頭髪をサンプルにしなくても、犬の毛を使えばいいんじゃないですか?」
「実は、犬のゲノムはまだ完全に解明されとらんでな、よって『ブリキの太鼓』が探知する、らせん構造が発生する共鳴波動も確定できんのじゃよ。だったらいつもあのルリちゃんといっしょだったというポルナレフのことじゃ、毛の一本ぐらいは紛れ込んでおろう」
「な、なんかあばうとだな....」
「何、心配はいらん。この『ブリキの太鼓』を使えば大体の場所を探知した後に三点測距で正確な位置を割り出せるんじゃからな」
「どうでもいいけど、そのネーミングはなんとかなりませんか....」
「何ブツクサ言っとるんじゃ。ほれ、あの堀の石垣の上まで引っ張るんじゃ、木郷君」
「ま、まぢですか」
「三点測距は高いところからと決まっておろうが。ほれ急げ」
「はひ〜」....

....とても携帯には向かない携帯型核融合炉と探知機と薄井幸子、そして途中から「疲れた〜」と駄々をこねるルリ、最後には博士まで加わって、積載量が優に300kgを超えたリヤカーを木郷君が息も絶え絶えに石垣の上まで引っ張りあげた。

「は、はかせ....(ゼエゼエ)も、もう....(ゼエゼエ)..動けません...」
「おお、ご苦労じゃったな木郷君。どうやら場所が確定できたようじゃ。ここから方位278度、俯角15度、距離502m30cmのところじゃよ。さあ帰りは下りじゃ、『人生苦もありゃ楽あるさ〜♪』じゃよ木郷君、それご〜ご〜」
「ちょ、ちょっと博士、う、うわあぁぁぁぁぁぁぁ」....

....いうまでもないことだが、リヤカーは登りより下りが死ぬほどキツイ....
「あれ....?ひょっとしてこっちって....?」
暴走する荷台の上で、ルリは首をかしげた。....

....一行は、とある小学校の下駄箱の前にいた。
そのひとつに「月野ルリ」と書いてある。
「......やっぱり....」
ルリが呟いた。
「博士....」
リヤカーごと植え込みに激突し、ハンドルの先で生ける屍と化した木郷君が怨めしそうに博士を見た。

「ま、まあその....よく言うではないか、『犯人は必ず現場に戻ってくる』と...」
「何を訳のわかんないことを言ってるんです....結局わからずじまいじゃないですか」
全身打撲で身体は動かずとも、ツッコミだけは忘れない木郷君だった。

....あの....博士のおっしゃることも一理あるような気がするんです....
「おお、さすが民子さんじゃ。してそれは?」
....(幸子ですけど)....ルリさん....ポルナレフがいなくなったのはいつごろですか....?
「えーっと....あの日の3時過ぎには母さんがご飯をあげたっていってたから....夕方だと思うけど....」
....ひょっとしたらルリさん、ポルナレフはあなたを迎えに来たんじゃありませんか?
「....なるほど!そういえばあの子、学校の場所知ってるもん」
....どうでしょう博士、この辺をもう少し探ってみては....近くなら私もこれでお手伝いできると思います....

幸子はカバンからシートとおはじきのようなものを取り出した。
「何じゃそれは?」
....プレートダウジングの道具です....日本でいえば『コックリさん』みたいなものでしょうか....
「何じゃと?!そんな非科学的なもん、私は認めんぞ!....」
....え....でも....
「そうですよ博士。少なくとも博士の無駄な機械よりはまだ期待が持てますよ。とりあえずやってもらったら....」
....そうですね....こないだ朽木さんの彼氏の骨もこれで見つけましたし....やってみますね....
「・・・・」

「ムナンダラ・モリ・クリョーゲリスム・ホークロレスト・ポグト・マリ....ムナンダラ・モリ・クリョーゲリスム・ホーク....ジンの御名により、我等が探し失せ物を見出せよ....ムナンダラ・モリ・クリョーゲリスム・ホークロレスト・ポグト・マリ....」

「博士....こういってはなんですが....」
「な、なんじゃ?木郷君」
「薄井さんって....」
「皆まで言うな....」
固唾を飲む3人の前で、憑依れたように呪文を唱える幸子....その前に敷かれたシートの上を、音も無く駒が滑っていった。
「ムナンダラ・モリ・クリョーゲリスム・ホークロレスト・ポグト・マリ....(ガクッ)
「薄井さん!!」「おねえちゃん!!」「大丈夫か?!民子さん」....
卒倒した幸子に、3人が駆け寄った。
....だ、だいじょうぶです....そ、それより....『こんなん出ました』...

博士と木郷君は驚愕した。
出会って以来初めて、幸子がギャグを言ったらしい....

....「ここじゃな」
一行はとある学校近くのアパートに来た。
その一階の角部屋が、どうもダウジングの指す場所らしい。
あいにくと、住人は留守のようだ。

....間違いが無ければ、この中にいると思います....
「あたし、調べてみる」
「え....けどどうやって?」
「これ....」ルリは犬笛を取り出した。
「これを吹けば、ポルナレフは近くにいれば寄ってくると思うの」
ルリは笛を口にした。

人には聞こえない超音波が、周囲に響き渡った。
(ガリガリガリ......)
「あっ!!ポルナレフ....!!」
部屋の中からドアをかきむしる音がした。
「ポルナレフ!ポルナレフなのね!!」
「おかしいなぁ....ぜんぜん吠えないぞ」
木郷君が首をかしげた。
「ポルナレフはお行儀いいから、ウチの中では全然吠えないの...あぁでも、間違いないわ!」
「ねえ博士、なんとかできないんですか?」
「なんとかって....」
「博士の手持ちの破壊兵器で、いつものようにこんなアパート吹っ飛ばしちゃいましょうよ」
「私をなんだと思っとるのかね、君は....それにだ木郷君、どうやらポルナレフは生きておるようじゃ。今日はこのまま引き取って後日改めて伺うことにしよう」
「そんな....だってポルナレフになにかあったら」「そうよそうよ...!!」
「私の経験から言うと、この時点で生きておる失踪ペットはまず大丈夫じゃ。虐待など受けず、とりあえず大事に保護されておるはず。だとしたら非合法に取り戻すのではなく、ちゃんと訪問したほうがいいと思うんじゃ。どうじゃルリ君?」
珍しく常識的な博士の言葉だった。

ルリはしばらく不満げに考え込んでいたが、博士の説明に納得した。
「....わかった」
「よし、偉いぞルリ君。ではまた次の日曜日にでもいっしょに尋ねてみるとしよう。それまでその笛を預からせてくれんか?」
「いいよ、はい。」・・・・

....その150へ続く(超音波発生少年)