短期集中連載(笑)
−この物語は、フィクションである−
その147
『博士ショップ』は、中野ブロードウェイにある。
....最近、店の左端にパーティションで区切られた一角ができた。
入り口には『幸子の占いコーナー』とある。
「・・・・ありがとうございました・・・・」
「どういたしまして....あの....気を落とさないでくださいね」
「・・・いえ、大丈夫です・・・」
「私でよければ、いつでも力になりますから....」
「いえ・・・・ホント大丈夫ですから...」
「そうですか....またどうぞ....」
....『占いコーナー』から出て来た若いOLが、ガックリ肩を落として、消え入るように階段へと去っていった。これで何人目だろう....?
「....博士....マズいんじゃないですか?」
「なぁに心配ない。毎日そんなに多く観てるわけでもないし、民子さん自身やる気満々じゃからのう」
「いや....それよりも店の評判の方が....一部ではもう既に『占い』じゃなくて『呪い』コーナーだっていう噂が立ってますよ....大体ああいう商売って、あることないことフカシまくって『自分を変えたい願望全開OL』をだまくらかすのがセオリーじゃないですか?万が一にでも『◎anako』とかのバカ雑誌にでも載っちゃったらどうするんです?フクロやジュク西で行列作ってる愚民どもの口コミで殺されちゃいますよ」
「....君は全女性を敵に回す気かね....紹介されたらされたでいいじゃないか、木郷君。現実を直視することから科学の発展が始まるのじゃ。民子さんは科学的人民救済の尖兵として戦っておるのじゃ、君も少しは見習ったらどうかね?」
「....あの衣装もですか?」
「私もそう思います....」
いつのまにかパーティションの奥から薄井幸子(28)が姿を現した。
もうすっかり体調は良い....はずなのだが、相変わらず生きているのか死んでいるのかわからないような女性だ。
「何を言うんじゃ民子さん!昔から占いといえば白装束に赤い袴、烏の濡れ羽色の髪に和紙の髪止めと決まっとるんじゃ。貴女の長い黒髪は、神の国の女給仕となるべく生まれてきたかのようじゃ」
「博士....それは巫女さんというんじゃ....」
「うるさいぞ木郷君、神に仕えておるのじゃから立派な女給仕じゃないか。そうだろう、民子さん」
「は...はぁ....」
「それに榊とお札は必須アイテム、亡くしてはならんぞ」
「あの....(私、幸子なんですけど)....でも....」
「ん?」
「....私....専攻が西欧呪術なんですけど....」
「・・・・(専攻って、一体....?)」
....そんなことがありながらも、『占いコーナー』が『博士ショップ』本体よりもまだマシな営業成績をあげながら何週間かが過ぎた。
「ごめんください」
「はい、いらっしゃ....あれ?」
木郷君は思わず辺りを見回した。声はすれども姿が見えないのだ。
「ここですよ。ここ」
カウンターの下から声がした。
木郷君が慌てて見下ろすと、そこには女の子が立っていた。女の子....確かに成りは子供なのだが、僅かに青を帯びた黒髪と、深い紫がかった色の瞳が、妙に大人びた雰囲気をかもし出している。
「はじめまして、私、月野ルリと申します。こちらで探し物を見つけてくださるとうかがったのですが」
「探し物....ですか?」
「はい」
カウンターをはさんで、木郷君と女の子は向かい合った。
博士と薄井が食事に出かけた、けだるい午後のことだった。・・・・
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