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短期集中連載(笑)

−この物語は、フィクションである−


その145

近くのコンビニに出かけた三ツ矢道広(22)は、スポーツ新聞とおにぎりを持ってレジに向った。
「いらっしゃいませ。おにぎり温めますか?」
「いえ、けっこうです」
レジにいたのは、ショートの髪の一部分だけ三つ編みにした、かわいい感じの女性だ。年の頃は三ツ矢と同じくらいか。

「お会計278円になります」
「小銭あったかな...3、6、9、12、15、18と」
二上麗奈(20)は思わず顔を上げた。
釣り銭を受け取る手が微かに震える。
「....お先にお返し2千、4千、6千....」
三ツ矢も麗奈を見た。
「ま、まさか....」

三ツ矢は黙って店を出た。
人気のない裏通りに入る。
背後でうごめく気配がした。反射的に姿勢をかがめる三ツ矢。
その瞬間、もと三ツ矢の頭があった位置を3本のナイフが通過していった。

振り返る三ツ矢の頭上から、サイを両手に空中から舞い下りてくる麗奈の姿が映った。とっさに路上を転がり、攻撃をかわす。麗奈のサイが地面に突き立ち、それを回転脚で弾き飛ばす。麗奈はサイに拘らず、ナイフを取り出して指の間に挟み、三ツ矢の顔面を狙ってきた。三ツ矢も腰のホルダーに装備していたトンファで応戦する。
ナイフとトンファが絡み合い、両者はもつれた。こうなると体格的に麗奈は不利だ。三ツ矢に組み伏され、二人は地上に倒れ込んだ。

「....気が付かなかった....毎日会ってる筈なのに」
「....私は....わかってた....だけどまさかあなたが....」
「でもどうしてだ?どうして俺達が....」
「掟には逆らえないの....」
「そんなものクソクラエだ!君達が滅び行く一族だとしても、君は現にここにいる、そうだろう!」
「だけど....」
「おれたちで歴史を変えればいいんだ、君と俺の一族の血塗られた歴史を....」
「できると思うの?」
「やるんだ。君と俺、ふたりからはじめれば....」
いつしか降り出した雨の中、二人は抱き合い路上に倒れ込んだまま動こうとしなかった。....

....「今日、我々の数千年に渡る抗争の歴史に終止符をうち、和解が成立した事を嬉しく、また誇りに思うものであります。『Zwei Grune(2つの緑)』そして『Drei Rot(3つの赤)』各々は『Funf Bleu(5つの蒼)』として一つになりました」
壇上で五木道広(30)と五木麗奈(28)は並んで群集の前で高らかに宣言した。
「....ただいまより、我々は共に基数を5として社会の中に『突き出す』仲間としての意識を以って参りたいとおもいます。皆さんのご協力をお願いします」
宣言は歓呼をもって迎えられた。....

....この組織で10進数が一般化したのは、彼らの間に双子が生れる数年後のことになる。


....その146へ続く(印度の平原で)