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短期集中連載(笑)

−この物語は、フィクションである−


その143



・・・・「しかしよぉ、オマエが来いっていうからわざわざ来てやったんだぜ。なんだここは....ヲタクの巣窟じゃねぇか。どこにあんだよそのボードの店ってのは?」
ごめんなさい....すぐそこだから....ほらあそこ
薄井幸子(28)はヒロトを連れて『博士ショップ』にやってきた。

店はいつのまにかボードで埋め尽くされていた。
「やあ、いらっしゃい。お探し物はございますかな?」
いつもの白衣を脱ぎ、ユーイングのTシャツにバスケのパンツを着て、すっかりストリート系ぢぢぃに変身した博士が丁重に迎えた。その様子を黙って横で見ながら木郷君は思った。
”目的達成のためにはどこまでも卑屈になれる人だ....”

「いいデッキがあるって聞いたんだけど....」
「このreese forbesなんかどうです?」
「お、いいねぇ....俺今オーリー闇練してんだ。トラックは?」
「こちらなんかどうですかな?Bliggsのチタン製アニバーサリーモデルですけど」
「俺、チタンは軽すぎてキライなんだよね....ジュラのビンテージある?」
「それなら、Kingstonの'80モデルがありますよ。今のトレンドからするとちょっと高めですけど、加工すればオッケーでしょう」
「どれどれ....んー、やっぱウィールつけないとわかんないなぁ」
「お客さん、うちはウィールじゃない独自のデバイスなんですよ」
「ん?どんなの?」
「これです。超小型重力遮蔽滑空デバイス『菊花2号』」

....それは普通のウィールの代わりに、巨大な肉まんを一個くっつけたような形をしていた。まるで....
「....ドラえもんの足みたいだな。ネームもだっせぇっ...これでどうやってプッシュすんの?」
「走るんではないんですよ、お客さん。これは通常モードで地上から約5mm浮上して滑空するんです。だからオーリーやターン系が苦手な人も、これさえあればもうプロフェッショナル並というわけで」
「へぇえ、マジ?」
「嘘だと思うんなら試してみます?」
「そうだな....サンプラに行ってみてもいい?」
「もちろんですとも。おーい、あづさちゃ〜ん」
「は〜い」
「お客さんをご案内してくるから、また留守番よろしくね」
「は〜い。この人ですね、今日のギセイシャは」
「何だと?」
「こ、これあづさちゃん...いえ何、こっちの話しです。役にハマり過ぎる癖があるもんで、この子は」
「そうなんですぅ〜『私は残された時間のすべてを、あなたに捧げます....』なんちて、えへっ。」
「そうなの....君、カワイイね。よかったらうちに遊びに来てよ。ほらココ」
ヒロトはあづさにお店の名刺を渡して営業スマイルを投げた。
「わぁ、嬉しいですぅ」
「じゃ、またあとで」
「は〜い。いってらっしゃいませ〜」

サンプラザの前にやってきた博士、木郷君、そしてヒロトの3人。
デバイスを取り付けたボードをヒロトが地面に放り投げる。
「おおっ、マジ浮いてんじゃん....乗っても大丈夫なの?」
「もちろんですとも。あ、これがコントローラです」
博士は指の出る黒レザーのグローブをヒロトに渡した。
「グリップの強さで重力遮蔽率が調節できるので、上昇高度が調節できるようになってます」
「なんだかこむずかしいなぁ....」
「なに、強く握ればそれだけ高く上がるということで」
「あ、そ」
ボードに乗り、ヒロトは滑り出した。
「おっ、これマジスゲー!!オーリーなんか楽勝っつーか?」
興奮気味にステアーの上へ走り去ったヒロトに、博士が大声で呼びかけた。
「でしょでしょ?コントローラ使ってエアートリックもやってみたらどうです?」
博士の言葉に、ヒロトは応えた。「おぉーっし、いくぞおーっ!」
「...木郷くん、耳を塞ぎたまえ」
「は?はい?」

ヒロトが右手を目一杯握りこんだその瞬間。

きゅどおおおぉぉ〜ん...


....衝撃波が広場に炸裂し、サンプラザの窓ガラスが吹き飛んだ。

「ほほお....音速を超えたな(キーンキーン)」
「北緯35度のこの辺じゃ、自転速度が1365km/hですからねぇ(キーンキーン)大気の底だと微妙なところでしたが(キーンキーン)、どこまで飛んでいきましたかね、彼は...(キーンキーン)」
「まあ空気抵抗があるからのぅ(キーンキーン)...成層圏は突破できたとは思うんじゃがフルモードだとパワーパックが40秒しかもたんというのがあのデバイスの弱点じゃ(キーンキーン)
「....それじゃ商品を回収できないじゃないですか(キーンキーン)しかも重力圏を離脱できないと証拠が残りますよ(キーンキーン)
「その点は大丈夫じゃよ、木郷君。少なくともあやつがラジオゾンデのごとく爆発散華する高度までは打ち上げられとるはずじゃ。今ごろ夜空に輝くジゴロの星となっておろう。それにパワーパックが切れると2次電池が作動してサスペンドモードに入るから、自律滑空航法で戻ってくるというわけじゃ」
....待つこと2分20秒後、目論見通りボードとコントローラのグローブだけが舞い降りてきた。
「それにしても確かにパワーパックの改良は今後の課題ですね」
「しょうがないんじゃよ、民生品を使っておるしな」
「ふーん、どれどれ....」
木郷君は白いエレメントを外し、黒いパワーパックを取り出した。
そのパワーパックには、見慣れた電力供給源が入っていた。

「ぜ、006P....?」....



....10日後、『博士ショップ』に薄井幸子がやってきた。
「おお、来たか。例の光学追尾式選択型量子化機『MagicWand』の具合はどうじゃった?」
....はい....おかげさまで...あの...金属部分だけ蒸発して外れました....
「やったじゃないですか博士。初めて人の役に立つ発明でしたね」
「うるさいぞ木郷君....花は独占してよいものではないんじゃ、そうだろう、民子さん?」
は、はい....あの....(幸子ですけど)....それであの...
「ん?何じゃ?」
お代のほうなんですけど...私今持ち合わせが...
「いいんじゃよ民子さん。そんなことより、早く体調を元に戻すことじゃ」
それは、こちらで頂いた『腸のお掃除セット』がとても具合良くて....1週間続けたらとても元気になりました....もう大丈夫です....
「....!!あれをいっしゅうかんも?!」木郷君が絶句した。
はい....なんだか身体の毒素が出て行くみたいで...
「・・・・」
あの....それでなんですけど....あの....体調も戻ったことだしお代のこともあるので、こちらで雇ってもらえないでしょうか?....
「へ?」
....私....あまり....明るいほうじゃないし、身体も丈夫とは言えないですけど....一生懸命がんばります....お掃除でも....展示販売でも....

(あ、『あまり』....?)木郷君は思った。

「ほお、それはありがたい。うちとしても大助かりじゃ」
「ま、まじですか博士」
いいんじゃよ木郷君....じゃ、早速明日からでも来て貰えるかな、民子さん?」
「ありがとうございます....よろしくおねがいします....」

(博士って、こういう人がタイプだったのか....)木郷君はまたひとつ、博士の謎な面を見た気がした。

こうして、新たな店員が加わった。

....『博士ショップ』は、中野ブロードウェイにある。

....その144へ続く(すんません、まぢパクリばっかです)