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短期集中連載(笑)

−この物語は、フィクションである−


その140

『博士ショップ』は、中野ブロードウェイにある。

「じゃ、ワシはちょっと食事に行ってくるからな。すぐ戻る」
「そうおっしゃらずに、ごゆっくりどうぞ」

....コミックショップ『まんだらげ』本店のほうへ歩いていく博士(56)の後姿を見送った木郷君(27)は、大きく息を吐き出した。

確か今日は「サクラ大戦」のイベントがあったはずだ。しばらく戻ってこないだろう。やっとこれで一息つける。

『博士ショップ』は、博士の開発した商品を展示販売するお店だ。
店内には見るからに怪しげな機械や食品?の数々が所狭しと並べられている。もっともブロードウェイ自体が謎の店の巣窟なのであまり目立たない。店主の博士はどうもそこまで見越してここに出店したらしいのだが....

それにしてもロケーションもあってか冷やかしの客はやたらと多いが、本当に買っていったのは木郷君が博士の下で働くようになってからもほとんどいない。
それでも店が潰れずにいるのは、博士の現代科学の常識を超えた発明の数々のおかげ....ではない。ないのだが、なにやらこの博士は妙な人脈というか、ヲ繋がりを持っていて、とりあえずはこの店も維持できている....ということらしい。だが....
「ホントは、潰れてしまった方が世のためなんだろうなぁ...」 「何が潰れた方がいいんじゃ?木郷君」
「わっ!博士....サクラ大戦のイベント....じゃなかった、お昼はどうしたんです?」
「君は私にガセをつかませたな、木郷君。今日は『メイドさん最萌えコンテスト』だったぞ。ワシが西洋の女給仕を好かんのを知っててはめおったな。何じゃあのゴスロリとかいうヒラヒラの非機能的な上衣は!あのようなものに欲情する偏ったヤツラの気が知れんわ!!女給仕は昔から絣の着物に袴、ショートブーツで黒髪に蒼の蝶リボンと決まっておるのじゃ!」
「博士、それ無茶無茶偏ってます....」
「まあそれはそれ。時に木郷君、店が潰れた方がいいとは、助手にあるまじき暴言だぞ」
「(こういう時だけ物覚えがいいんだから....)ですけどねぇ博士、今日だってまだ1つも商品が売れてないですよ」
「ふん!真の科学を理解できんヤツラの消費動向など、顧慮するに値せんわ。そうじゃろう、木郷君」
「理解できるような商品を、博士が作れないだけですよ。さっきだって....」....

....そう、午前中も女子高生が来ていたが....
「ちょっとちょっと!『おなかスッキリお肌もスッキリ!!腸のクリーニングキット』だって」
「へぇ〜すっごぉ〜い、なになに....『夕ご飯の後で一袋飲むだけ・走召〜→カンタンダイエット&エステサプリメント』って書いてるよ。すみませーん、これいくらですかぁ?」
「はいはい、おぉ、これを見つけるとはなかなか目が効くのう。これはまだ正式版ではないのじゃ、特別に\1000でどうじゃ?」
「ええーっ!そんなんでいいんですかぁ?!じゃぁ、2つくださ....」「ちょ、ちょっと君達....」
「はぁ?」
「....念のために聞いとくけど、ホントにいいの?」
「こら、木郷君....」
「ダメですよ博士、こういうことはちゃんと説明しとかないと...ほら、これが説明書ね」
「?...どれどれ....」

腸のクリーニングキット使用手順
食後30分以内に一袋飲んでください。
服用後30分で肛門から腸が出てきます。
同時に口から顔が吸い込まれます。
60分ほどでお肌と消化管が完全に裏返ります。
シャワーで消化管の表皮をきれいに洗い流してください。
そのままお休みください。起床時に腸は体内に戻ります。(※)
戻らない場合があります。

「....まぢ?」
「まぢ」
「嘘でしょ?」
「ホント」
「......」
「....引いてます?」
「......(ウンウン)」黙って頷いた女子高生は、脱兎のごとく逃げ去った。

「....ダメじゃないか木郷君。せっかく人体実験の材料が来たというのに....」
「恐ろしいことを言わないでくださいよ、博士....」
「どうせ女子高生なんぞ掃いて捨てるほどおるんじゃ。午前中にこんなとこをほっつき歩いとる輩なんぞ、ワシの研究材料になる以外何の価値があるというのじゃ?」
「またそういうことを....犯罪ですよ犯罪」
「だいじょうぶじゃよ、ほらちゃんと法的根拠はある....」
博士は箱をひっくり返した。

[PL法対象外認定商品]

「....かってに作らないでください」
「やっぱりダメ?」
「ダメです」....

....木郷君の鋭い指摘に、博士はちょっと傷ついたようだった。
「なんかこう、ここに今あるようなクソの役にも立たないようなものじゃなくて、もっと実用的な発明をしないと、そうでしょう博士?」
一応フォローのつもりらしい。らしいが追い討ちにしかなっていない。
「....言いにくいことをずけずけというやつじゃなぁ、君は....君がワシの元へ来た頃は、もっと優しくて誠実な奴じゃったが」
「朱に交わればということですか」
「.....まあ、それは置くとして、どうじゃ、ちょっと実験に付き合ってくれ。木郷君の言う『実用的な発明』とやらをひとつ開発したんじゃ」
「お店はどうするんです?」
「『まんだらげ』の鵜野森くんに頼んどいたよ。さて行くか」
「ちょっと、博士....」
なにやらダンボール箱を抱えた博士の後をあわてて木郷君は追いかけた。

「あら、おでかけですね」
鵜野森あづさが木郷君に声をかけた。「まんだらげ」でバイトをしているコスプレ店員だが、博士が社長と話をつけたらしく、時々店番を頼んでいる。
「実験だってさ、ちょっとお願いね。あづさちゃん」
「はーい、今日は無事に帰ってきてくださいね〜」

お店のイベントに合わせて「エリュシオン」のコスプレをしているあづさが、ニッコリ笑って恐ろしいことを言った。......


....その141へ続く(すんません、まぢパクリばっかです)