短期集中連載(笑)
1908/09/15 ウィーン 正門の前に建つケンタウロス像の前を、19歳の青年は憤慨しながら歩いていた。 これで2度目の不合格だ。 前は実技試験までいったが、今度は一次試験で門前払いだ。創作もさせずに振り落とすとは、言語道断だ。 「....君の作品は....そうだな、独創的ではあるが技術的に課題も多いし、表現する世界観がぼやけている。まずは人物のデッサンからきちんと修得すべきであろうな。全てはそれからだ」 すでに心の中でしたり顔の試験官の首を、彼は何度締め上げた事だろう。 ....しかし憤怒の炎を上げても、それで不合格が合格に変わるわけではない。 とりあえずは、友人の結果も気になる。彼は下宿に戻る事にした。 「....変わった男でしたね。彼は」 美術アカデミーの窓からその青年を見下ろしながら、若い講師がつぶやいた。 「そうだな....彼の持つ思想、いや、そこまで大した物じゃないな、こだわりというのがどうも私には危ういものに思えてな」彼の師匠に当たる試験官の教授が応えた。「それに....」 「それに?」 「はっきり言うと私は、彼の作品が....気持ち悪いのだ」 「そんな....」 教授の言葉を冗談に取った講師は、真顔の教授を見て笑いをおさめた。 「技術の未熟さと彼には説明したが、彼の絵はまるで....あのクリスチャニアの変人の作品と同じ匂いがするのだ」 「なるほど....」 講師も、あの病的に死に傾斜した世界を描く画家の作品を思い浮かべた。 見たくもないのに、誰しもが抗し切れず魅入られてしまう。 そんな絵画世界と、青年の画風、そして面接での主張が重なって感じられた。 そんな青年の為人を直感し、アカデミーから意図的に排除した教授は、やはり人並みはずれたセンスの持ち主だったといえよう。 だが、この時点でその青年の未来まで予見したわけではなかった。・・・・ |