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短期集中連載(笑)

−この物語は、フィクションである−


その134

「ご注文はお決まりでしょうか?」
「あ、え....っと、『キーモン』をお願いします」
「じゃ....私は『チャイ』を...」
冴えない男性客2人連れから、メニューを見る前にあらかじめ考えていたようなオーダーが返ってきた。メニューには『キームン』って書いてあるのに....

私、九條若菜(22)はこのティールームに勤めはじめてから4年になるけど、この手の客はすぐ判る。あたしたちの制服が目当てなのだ。

白い襟がついた、黒のロングのワンピース。そして白のロングエプロン。
英国風のトラッドなメイドサーヴァント服は、私もお気に入りだった。店の雰囲気とこの制服に憧れてバイトを始めたようなもんだ。

ウェッジウッドの白磁ポットに漆黒の茶葉を入れ、85度に温めたお湯を注ぐ。ポットカバーを被せてトレイに載せ、もうひとつのポットには熱湯を入れる。背筋を伸ばし、テーブルまで運ぶまでの間、私は英国の由緒ある貴族の館のメイドになった気分に浸る。

でもテーブルには、素敵な旦那様が待っているわけではない。
「お待たせいたしました。『キームン』でございます」
「あ、ど、どうも....」
男は伏し目がちに応えた。視線がエプロンの裾を観察している。

まあ知らないと思うが、一応聞いておこう。
「差し湯はご存知ですか?」
「い、いえ....わかんないっす」
「こちら紅茶が濃くなりましたらお使い下さい」
「あ....なるほどね」
「ごゆっくりどうぞ。チャイはもう少々お待ち下さい」

「若菜チャン、ちょっと....」
レジに戻ると、ウェイトレス仲間の美樹さんが小声をかけた。もうじき還暦のオバチャンだが、制服を着ると西洋の絵本に出てくる魔女さんみたいでカワイイ人だ。
「あのお客、カメラ取り出したよ。気づいてた?」
「あ、ほんとだ。なんか雰囲気あったからなぁ....」
「気をつけなよ。変な写真取られないように」
「うん」

ここに来る制服フェチ(というのか?)なお客さんにも色々いる。
正体を明かし、礼儀正しく頼んでくれればこちらとしてもイヤとは言わない。
だけど、知らん顔して隠し撮りするのはサイテーだ。そういうお客には制裁を用意している。

「ありがとうございました」
奥で打ち合わせをしていたTV関係の人たちが席を立った。
食器を下げに行きながら、例の2人を銀のトレイに映して観察した。
「あ、やった....」
何気にテーブルの上に置かれたデジカメの赤外線が光った。おそらくセルフタイマーを使ったのだろう。

「美樹さん、例の『制裁』お願いします」
「やっぱりね。了解」
美樹さんはチャイに入れるシナモンパウダーの代わりに、レッドペッパーパウダーを取り出した。・・・・

・・・・翌日、若菜の後姿が掲載されたあるWebページが更新された。



『謎のチャイ!!今話題の中国健康茶を使用か?!』

−いやーマジ辛いっす(ひー)
木下隆雄「寒くなってきましたね」
小椋良二「暖かいものが恋しくなる季節です」
木下「すると印度ですな」
小椋「そういう素直でない貴方が好きです」
木下「照れますね」
小椋「バカ....で、こういう喫茶店に着て、いや来てみました」
木下「今のウェイトレスさんの制服なんですけど....」・・・・


....その135へ続く(辛いモノ会の方だったとは....)