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短期集中連載(笑)

−この物語は、フィクションである−


その131

・・・・新都心といえど、さすがにこの時間になると人通りが少なくなる。
向かいのホテルのラウンジで時間を潰した新島二郎(36)は、0時に事務所に戻ってきた。
「よぉ」
階段で、新島を呼び止める声がした。新庄だ。
「珍しいですね。残業ですか」
「俺は行きたい時に行きたい所へ行く事にしてんだよ」
「照れるじゃないですか」
「バカ」
新庄はその口調とは対称的に、なにやら緊張した面持ちだった。
「....何が起るんです」
新島はまた単刀直入に尋ねた。
新庄はそれに直接は応えず、別のことを口にした。
「オマエさんのそのPDA、中々かっこいいな。確か『凡』でも何度か叩いてる所を見たが」
「これですか....もうでも大分古い機種ですよ。1995年発売ですから」
「そんなにか?もう10年選手じゃないか」
「でも不自由してませんし」
「そうか....IBM製品だしな」
「ご存知なんですか」
「ああ。確か開発名が...."Monolith"だったよな。あの映画は見たか?」
「いえ....確かそれが地球生命の進化を早めたとかいう話しでしたっけ」
「ふん、あれはメッセージだったのさ。そう、キューブリック本人も気づかない内に仕組まれたメッセージなのさ....」
「メッセージ?誰から?誰に?」
「それをこれからあんたに見せようというわけさ....だが、確認しておきたい事がある」
「何です?」
「おまえさん、本当にそれを知りたいのか」
「ここまでやってきて何を言うんです」
「後戻りはできないぞ、知ってしまったら」
「....何のことだかよく分かりませんが、知ることは僕の希望です」
「そうか....ならいい」
それっきり新庄は、Mビル跡が見える窓に椅子を向けると黙り込んだ。....

....予告の2時が近づいた。
やおら新庄が椅子から立ち上ると、壁の防火シャッタースイッチの扉を開けると、中のパネルを操作した。

不意に、窓の付近に3次元の映像があらわれた。
Sビルの内部構造が緑色のフレームで描画され、メッセージが表示された。
驚く新島の目の前で、コマンドがスクロールしていく。
”中性微子ジェネレータ動作準備”
”外部光学遮蔽動作開始”
”外壁コネクタ接続準備”

「い、一体なにが?!」
「モノリスだよ」
「新宿モノリス....?あの向こうの?」
「あれはダミー。ホンモノはこれから『やってくる』」
「?.....!!」
新島の疑問は長く続かなかった。遥か下、地上高10m付近に雷光に似た放電が走ったかと思うと、紫色の光の円が展開され、そこから黒い巨大な物体が上に伸びてきた。
「......あ、あれは....?!」
「Mビル。モノリスの本体さ」
突然のことに新島は頭の中が真っ白になった。
「それ」はかつてそこにあったMビルとまったく同じ外観だった。ただ一つ、途中の壁面からアームの様なものが伸びてくるのが違う箇所だ。それが彼らのいるSビルに接合した。
「これから中性微子ガンをコア付近のテラフォーマーに撃ち込む。オマエさんたち人間のいう1万年に1度のMBH炉のエネルギー補給と定期点検だ」
”ちょ、ちょっと待ってくれ....”
テラフォーム....中性微子....マイクロブラックホール....それに「人間」だと?すると新庄は....

「まあ、そういうことだ。つぎはオマエさんが担当になるわけだけどな」
「た、担当...?」
「そう、次の点検まで勤めてもらうわけだ。そのためのマニュアルはここにある。じゃ、任したからな」
「ま、まって...」
「それじゃあな。新島、あんたといると結構楽しかったぜ」
新庄を追って内側の回廊に出た新島の視界が白く爆発した。

Sビルの中央部に、巨大な光の矢が突き立った。

Mビル....の姿をした謎の構造物から供給されたエネルギーによって、中空構造のSビルに設置されたジェネレータが起動し、壁内を縦横に走るメンバーに通された電力によって中性微子が加速され、地殻に向けて発射されたのだ。透過性の高い中性微子は下層階をなんら傷つけることなく突き抜けていった。

内側に面した窓が白熱する。

が、粒子線の収束度が高いためか、回廊には影響が無く、新島も視界を漂白されただけでなんら危害を受けなかった。

だが、照射終了後も新庄の姿はどこにも見当たらなかった。

元の薄暗い状態に戻った回廊で1人、呆然と新島は立ち尽くした。
目の前で起こった事、新庄の言った事、そして手元に残った「マニュアル」....。
全てを理解するには、時間が必要のようだ。・・・・

・・・・「こんばんは」
「いらっしゃいませ。おしさしぶりですね」
「そうですね。ここんところ忙しかったから....あの、ここでノート使ってもいいですか?」
「どうぞ」
新島はすっかり手になじんだ黒いPDAを取り出すと、レポートを作成にかかった。

定時報告書 テラフォーム時+4.5x10^9Y A.D.2005/10/01
最大勢力個体総数: 4.0x10^9
分布 第1大洋西岸大陸、第2大洋東岸大陸に多い
食用適性 良(但し環境汚染物質の影響を考慮されたし)
備考 最大勢力個体の知能は主に化学エネルギーを利用するレベルであり、採取に当たっては注意を要する。友好的手段を用いてアプローチのが良策と思われる。
「....いつもお忙しそうですね」
「いや何、趣味みたいなもんですよ。グルメなもんで」
新島は、シニカルな笑顔を浮かべた。

....その132へ続く(第2の地球は何処...)