短期集中連載(笑)
−この物語は、フィクションである−
その128
思ったとおり、今日は雨だ。
僕にとって大事な日は、いつもそうだ。
1500ccのフラット4は喘ぐように丸っこいその老体を後ろから押している。
ワイパーが震えるその体で、一生懸命窓を拭いている。もうバッテリーがキツいのか、だんだん鈍くなってきているような気がする。
お気に入りの浜辺には人影もなく、ひっそりと静まり返っていた。
君はさっきから、少し伸ばした髪の先ばかり気にしている。
曇り始めた窓の向こうに、鉛色の空と海が見えた。
....ずっと前から好きだったのに。
2人きりだとどうしてこんなに苦しいのだろう?
何を話しても、少し開けた窓の隙間から風に飛ばされて消えてしまいそうだ。
たまりかねて、僕はドアを開けた。
6月の雨が、この日のために買ったばかりの麻のジャケットを容赦なく濡らす。
ボンネットに腰掛ける振りをして、わざと滑って砂の上にずり落ちてみた。
砂だらけになって立ち上がり、君を見ながら肩をすくめて見せる。
....初めて君が、くすっと笑ったような気がした。・・・・
・・・・雨の海って、キライじゃない。
寂しい心を隠してくれそうな気がするから。
誘ってくれたのは、冗談だと思ってた。
だってそれは、私の勝手な想いだったから。
....ねえ、何か話して。
あなたの好きな車のことでも。
わからなくても、あなたの声が聞きたいの。
だって、このままじゃ苦しくて。
わたしはなぜここにいるの?
窓の外に見える波へと、あなたが歩いていく。
あなたについていってもいいの?それとも....
....転んでみせたあなたの演技、少しだけ嬉しかった。・・・・
「傘、持ってこなかったね」
「いいの」
「また....来たいね」
「うん....こんな雨の日がいいな」
「そう?でも夏は混むからやだな....」
「そうね」
「じゃ、その後で」
小降りになった雲間から、頼りない日差しが2人を見ていた。
大滝詠一 |
「雨のウェンズディ」 |
from"LONG VACATION" |
伊藤美奈子 |
「九月の約束」 |
from"PORTLAIT" |
....その129へ続く(有名?な返歌)
|