短期集中連載(笑)
−この物語は、フィクションである−
その126
激しい雨がサッシの窓に当たって静かなノイズを立てている。
遠くでビルの合間を抜けていく風鳴りの音がした。
菅原理沙子(28)は、初めて大友正幸(29)の部屋にきた。
少し落した灯りの中で、お互いに背を向けて濡れた髪を拭く。
びしょ濡れのワンピースを脱いで、大友が投げてくれた大きめのTシャツに着替えた。
付き合いはじめてから、3ヵ月になる。だが2人の間にはまだ何も起こっていなかった。とてもシャイで少し影のある大友。でも理沙子は、いつも2人きりの時に少しうつむきがちに話す、そんな大友が好きだった。
「寒くない?」
「....うん」
薄暗い部屋で、つけっぱなしにしたTVだけがぼんやりと浮かんでいる。
場違いなバロック音楽をBGMに台風の進路図が止まっていた。
背中を向けて座った2人の距離が、段々近づいていく。
「あのさ....」
「何?」
「実は....君に黙っていた事があるんだ」
「....え....」
「実は、実はオレ....
ヅラなんだ....」
2人の間に沈黙が流れた。
雨は相変らず、静かに激しく窓を叩いている。
「実は....あたしもなの」
「あ、そ....そうなの?」
「実は、その....あたし....
乳首が5つあるの....」
また、2人の間に沈黙が流れた。
風鳴りがますます激しく遠く、街を流れていく。
どちらからともなく、2人は向き合った。
やがて部屋は、漆黒の闇に包まれた。....
|