変な話Indexへ戻る

短期集中連載(笑)

−この物語は、フィクションである−


その125

その朝、そのお店の中は蜂の巣を突ついたような騒ぎになっていた。

最初に気づいたのは、早番の掃除のオネエサンだった。
「店の上からジャンプしたかと思たら、○○通りを斜交いに走っていかはりましたわ....」
青ざめた顔で彼女はそう言った。

とりあえず、店の顔がいなくては商売にも差し障りがある。
急遽会議が持たれた。
だが、いなくなったのは事実としても、そんなことに何人ものスタッフが関わるのもアホらしいような気がする....というのは、大方の意見だった。

結局、誰か1人が探すことになった。
だが社長の意向で「休暇」を取って行く事になった、そんなどうでもいい仕事に志願する物好きはいない。
「そや、非番のアイツに行かせぇ」

......こうして、家で休暇中だった篭原孝典(24)たったひとりの追撃隊が結成された。

「十三の駅から京阪に乗ろ思たら、屋根の上に被さっとりましたんや。そらもうびっくりしました」
「うちら宝塚見にいことしてましたんやけど、目の前をあんなんが通りよったんで....JR宝塚線はもうかなんですわ」
「何や谷あいをぼーっと見とったら、いかい中からなんや小さいのが出てきよりましてなぁ、ほんであっちゅう間に乗ってきよりまして....はあ。うちら気色悪うてはしっこによっとりましたがな」

・・・・あまりにも具体的な証言ばかりが指し示す方角に従って、篭原は京阪で梅田、大阪から福知山線、そして福知山から山陰本線とダラダラ旅を続けた。
列車は餘部の橋梁を通過している所だった。
さっきまで相席だった観光客のオバヤンによれば、
「ほういや、さっき豊岡で蕎麦食うてやはった人、米子のほうから帰ってきゃはったそうやけど、なんや香住の駅にほんなんがおったとかゆうてやはったなぁ....船に乗っとったらしいで」
とのことだった。

列車は海の近くの峻厳な山間を抜けていく。湾を大きく回り込むと香住の駅だ。
篭原は窓を開けて顔を出した。
確かに....ホームに大漁船に乗った巨大な赤いイキモノがいる。やつだ!
「見つけたで....やっと帰れるわ」
だが、篭原の安堵は、長くは続かなかった。

ホームに滑り込む列車。船の横腹が見えてきた途端、篭原は愕然とした。

「巨大..エビ?!」

....その126へ続く(活きのいいのが気に入った♪)