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短期集中連載(笑)

−この物語は、フィクションである−


その123
「これなら、俺でも作れるな......」

村田利洋(27)はつぶやいた。

妻の第2子出産が目前に迫ったある日曜日、村田は妻と、もうじきお兄ちゃんになる長男と共に、育児用具を買うために表参道の『クレヨンハウス』に来ていた。

ひととおり買物を済ませておもちゃ売り場を眺めていると、その中によく見る「ぽっとんころころ」があった。
ジグザグスロープの片側に穴が空いていて、上からビー玉をころがすと穴から下に落ちて反対へ転がり、また穴から落ちて....というあれである。

値段は....9800円。

きちんとした造りだから納得できない値段ではないし、手が出ないとは言わないまでも、子供のオモチャとしては高額な方だ。

眺める村田の頭の中で、設計図が描かれていった。

2日後、妻が入院し長男が寝静まった夜中に、近くのDIY店で買ってきた木材を加工し、現寸合わせで強引に組みながら、なんとか同じ形のものができた。村田にとっては初めての設計図起こしの木工作品だったが、それにしてはウマクできた方かもしれない。


翌日起きてきた長男に見せ、遊び方を説明した。
最初は不思議そうな顔をしていたが、次第に夢中になって「ぽっとぉ、こおこお」などといいながら遊んでいる。どうやら気に入ったらしい。

そのうち何を思ったか、長男はそれを窓際に持っていき、また作業を開始した。
秋の陽射しを反射しながら転がり落ちるビー玉が綺麗だ。
だが、そのうちの一個が路線を飛び出し、窓枠を飛び越えて一階のひさしを転がり落ちた。
「ああっ、おちてるー」
長男の声に、村田が窓から顔を出してビー玉の行方を追おうとしたその時、電話のベルが鳴った。
病院で妻に付き添っている義母からだった。
「陣痛の間隔が狭まってるって。もうじきみたいよ」

長男を連れて急いで家を出た村田は、ついビー玉のことを失念した。・・・・

・・・・2階から落ちたビー玉は、隣の芝生の上に転がった。
空から見ていたカラスが急降下して、それを拾った。
近くの駅のネグラまで飛んだカラスは、うっかりビー玉を落した。
下で昼寝をしていた犬の背中にビー玉が落ちた。
びっくりした犬が駆けだし、ピラカンサの木に突っ込んだ。
たわわに実をつけた枝が折れ、切り通しの下の駅に落ちた。
丁度通りかかった電車のパンタグラフに引っ掛かり、枝は2つに折れて飛ばされ両側のホームに落ちた。・・・・

・・・・下りホームに落ちた実付きの枝を、男の子が拾って電車に乗った。
2つ目の駅で降りようとした時、転んだ男の子が枝を落とした。
たまたま目の前を通った男が、実を踏み潰した。
男の子が大声で泣き出す。
あやそうとかがんだお母さんのカバンから、口紅が落ちた。
それをまた別の人が踏み、勢いでキャップが飛んだ。
飛んだキャップはホームを飛び出し、駅前を通る車の窓に当たった。
ミラーをこすったと勘違いしたドライバーが、対向車と口喧嘩をする。
怒りのおさまらないドライバーは、ハザードをつけたまま駐車した。
ドライバーはそれに気づかず、取引先での打ち合せで車を離れた。

3時間後、用を済ませて帰ってきたドライバーは、バッテリーが死んでいることに気づいた。
直結ブーストしようとして、うっかりウォッシャー液タンクを傷つける。
近所でチャージを済ませ走り去る車から液漏れ、道にラインが引かれる。
学校帰りの小学生が、面白がってラインの上を歩く。
バランスを崩し、自販機前でコーラを開けようとした人の背中を押す。
思わずよろけた人が缶を自販機にぶつけ、潰れた缶からコーラが吹き出す。
コーラでびしょぬれになった人が、目の前の病院のトイレに駆込む。
シャツを1枚脱ぎ、顔を洗ううちに洗面台に置いた時計を忘れる。
時計を見つけた掃除のおばさんが、そのクロノグラフを持って事務へ向かう。
おりしもセットされた時刻になり、クロノグラフが音を立てて震える。
びっくりしたおばさんは、思わずクロノグラフを放り出した。
クロノグラフは飛んで、処置室の入り口のガラスに激突した。
ガラスが音を立てて割れ.....中で分娩中の村田の妻がドキッとしたその瞬間....
・・・・上りホームで待っていた婦人が、実のついた枝を拾った。
婦人は手持ちの花束に差して、上り列車に乗った。
新横浜駅で降りた婦人の花束から、実が数粒こぼれた。
線路に落ちた実を啄ばみに、小鳥が降りてきた。
横浜線ホーム下に住むタヌキの子供が、小鳥にちょっかいを出しに来た。
ホームで待つ女子高生が、「きゃーっ可愛い!」と歓声を上げる。
売店で買物中のおばさんに、覗きにいった女子高生のカバンがぶつかった。
ムカついたおばさんは、うっかりお釣りを貰い忘れる。
売店嬢がおばさんを追いかけた。
売店嬢が新幹線入り口で段差につまづき、ヒールが取れる。
取れたヒールは群衆に蹴飛ばされ、ホームへの階段を転がり落ちた。
階段を歩いていた人が「危ない!」と下へ声をかける。
それに気づいたホームのOLがよけようと腰をかがめた。
その時OLのペンダントが手すりにひっかかり、線路へと跳ね飛んだ。
丁度入線した下り新幹線の車輪に巻き付く。
発車と同時に、猛烈に回転するペンダント。
回転したまま2時間半が経った。

米原手前のトンネルに入る直前、遠心力に負けて下の道に飛ばされた。
道を通過中のトラックのワイパーに引っかかる。
ドライバーが気づき、信号待ちでペンダントを外した。
材質疲労を起こしたチェーンが切れ、ペンダントトップが路上に落ちる。
そこをたまたま通りかかった車にひかれ、近くの店へと飛んだ。
それが赤外線に捉えられ、店のチャイムが鳴る。
「おいでやすー」店のオバちゃんが出てくるが、誰もいない。
「おかしいなぁ....」訝しげに首をひねるオバちゃん。
ふとオバちゃんは予感を覚えて、電話を手に取った.....

「はぁい....良く頑張りましたね.....おめでとうございます」
妻に付き添った村田が、担当医に礼を言おうとすると、スイッチを切り忘れた携帯が鳴った。
慌てて廊下に出た村田が電話に出ると......

「おまん、ひょっとして生れたんとちゃう?!」
息せき切った、村田の母だった。

「!.....なんでわかったん?!」

....その124へ続く(霊感・ヤマカン・第六感)