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短期集中連載(笑)

−この物語は、フィクションである−


その113

朝の人混みの中を、閃光のように駆け抜けていく男の姿があった。
k駅まで約徒歩20分、その距離をわずか4分で突破したその快速は、賞賛されるべきものであろう。だが車内で大きく肩で息をする岩崎哲夫(20)の前に、次なる難関が待ち受けていた。
M駅での乗り換え、1分・・・・!!
300m余りの距離、しかも階段のアップダウンがあることを考えると、ほぼ絶望的な時間だ。だが・・・・
「行くしかない!!」
足はもつれ、心臓が口から飛び出しそうな中距離走のさなか、哲夫の頭の中ではなぜかジムノペディアが渦巻いていた。
「そういえばサティってディアギレフとも親交があったんだっけ・・・・彼の作品はよくフザケが過ぎると当時は批評されたけど、今の日本じゃ癒しの代表だもんなぁ・・・・いかに表層的なとらえかたしかされてないかということだな。そもそも1920年代、ベル・エポックのヨーロッパというのはデカダンスの極にあった時代で・・・・」
人の群れをスラロームしながら、哲夫の思索はあらぬ方向へ進んだ。

・・・・閉まりかけた急行のドアに体当りしてこじ開け、なんとか目的をクリアすることができた。15分ぐらい遅れることになるが、いつものことだから大丈夫だろう。車内放送がなにやら喚いているが、今の自分には「いらだち」のピアニシモのようにかぼそく聞こえる。知ったこっちゃない。こっちは忙しいのだ。

・・・・目的地にたどりついた哲夫は、ルカの姿を探したが、どこにもいない。
「まだ来ていないのかな?」
キョロキョロあたりを見渡すと、伝言板に見なれた文字があった。

'遅せぇーよ。バカ。死ね。'
ルカ

「大砲は反則だぜ、サティー・・・・」



....その114へ続く(サクレクールの鐘が鳴る....)