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短期集中連載(笑)

−この物語は、フィクションである−


その108

秋風が吹くのに、妙に蒸し暑い朝である。
休み明けの憂鬱な気分を抱えながら、滝本健介(40)は満員電車に不機嫌な顔で乗っていた。

ふと、滝本の目に、車内吊り広告が目に飛び込んできた。
『”新連載!!究極の美乳理論’π理論’を証明すべく,XXは美乳探求の旅に出た!!”』・・・
「・・・・」
”とうとうあのメジャー漫画誌も落日の時を迎えたか・・・”滝本は、昔グラビアや東京●◎物語などのセクシー系コミックなどでなにかと『お世話』になった雑誌をバッサリと斬って捨てた。・・・「だけど女性キャラの描き方は悪くないんだよな・・」
そういうわけで車内吊りを眺めたままの滝本は、前に立ってる茶髪の男も同じようにそれを見いていることに気がついた。
”あぁ....リビドー全開の年頃だなぁ....オレもそうだったけど”
などと思う滝本の眼前で、何かを感じたのか茶髪が180度反転し、滝本とまともに目が合った。
「・・・・・・」

”何見てんだよ、このオッサン・・・”

とでも言いたいのか、はたまたバツが悪いのか、茶髪は少し滝本にガンをくれると、あらぬ方向を向いた。

電車はさらに混み合ってきた。

滝本が窓の外に目をやると、曇り空を映す窓の枠上に、
”アナタは夫のテクニックに満足?限界性愛指南’サティス○。◎ション’第2弾”とデカデカと書かれた女性誌の広告がかかっていた。

”・・・・”滝本はちょっとドキッとした。そういえば最近カミサンと少しご無沙汰ぎみの気がするが....と、同じ方向を眺めている首の気配に、思わず滝本は左側を向いた。と同時に30大前半の細面でタイトなスカートが似合う女性とまともに目が合った。
”・・・・何よ・・・”

女性の目が一瞬鋭く光り、すぐに滝本と反対の方を向いた。
「・・・・」”...オレが悪いのか?オレなのか?”
ちょっと滝本は後ずさりした。

途中の大きな駅でまた多量の乗車があり、車内は身動きできないほどになった。

先ほどまで手に持っていたPDAが危なくなってきた。滝本はそれを鞄にしまうと、濁った池の鯉のように人の群れから顔を突き出そうと上を向いた。
と、滝本のほぼ頭上に
「女も男も逆三角形が基本!筋肉を使って美しいシルエットを造る」
という、「ター○ン」の広告が下がっていた。
”そういや、オレも学生の頃はなぁ・・・・”空手をやっていた頃の自分を思い出しながら、またズボンがきつくなってきた腹回りを撫でてタメ息を吐いた。
その時。
滝本は不意に背筋に悪寒を感じた。
滝本と同じような吐息が、彼の首筋を愛撫したのだ。
思わず振り返るとそこには、滝本よりアタマ1つ背が高く、胸板は彼の倍くらいはある角刈りの日に焼けた男がいた。
滝本は、その男の厚い胸板にもたれかかるような格好になっていたのだ。
男は滝本と目が合うと、ほんの少しだけ
頬を赤らめて
 ニッコリ笑った。

滝本は全身の筋肉を総動員して、男の肉体から1cm離れた。



....その109へ続く(痴漢行為は犯罪です)