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短期集中連載(笑)
「まったく近頃の若いモンは・・・・」 GoldWingで路側を突っ走りながら、中山彦造(54)はボヤいた。 買ったばかりのKH400で夏の東名を走破しようとした、25年前のことを思い出していた。あの時は本当に死にそうになった。 自分らの若い時分に比べれば、あのRX-7とかいうスポーツカーに乗ったヤツなんかは、"リムジンでふんぞり返っている有産階級みたいなもんだ"。なにやらこちらの走路妨害を試みていたようだが、最低限のマナーも守れんヤツにスポーツカーに乗る資格などない。エンジンがオーバーヒートしたらしいが、いい気味だ。ブルジョアはいつかプロレタリアに打倒されるのが正義なのだ、そう思った。 それにしても夏に4つ輪に乗るやつの気が知れない。彼らの群れに巻込まれて思わぬ時間を食ってしまったが、こうして夏の夕暮れの風を感じながら快走できるオートバイの魅力を知ったら、もう元には戻れないだろう。そうなればこんな渋滞も一発解消、めでたしめでたしである.... ....などと考える彦造の目に、遠くキラキラ光るものが写った。 最近老眼が入ってきたのか、何やらはっきり見えない。どうやら私と張り合ってたらしいあのスポーツカーもダウンした。そろそろ疲れもあることだし、次のSAで休もうか.... そう考えながら走る彦造の前に、白ヘルメットを被った制服が、チェッカーフラッグを振るのが見えた。 「を、おい。。。」 気が付くと、彦造はツートーンカラーの車の後部座席にいた。 改造車両ということで、警官の職務質問は延々続いた。 いいかげん辟易してきた彦造は、合間にボンヤリと窓の外を眺めた。 のろのろと流れていく数珠つなぎの車の中に、熱射病から復活したあの黄色いセブンが見えた....
「みてみて、事故よ!」 「ほんとだっ、ねおとちゃん、くるまぐちゃぐちゃ〜」 「ぐちゃぐちゃ〜、ほっ!」 「あらぁ、ほんとだ....渋滞最後尾だったのかな?」 三原和也(33)はAZワゴンの狭い車内に、妻と、長男と、次男と、乳幼児必需装備のお菓子&ジュース&次男のおむつを満載して身動きが取れないほどのまま、なんとかここまでやってきた。車好きの長男と次男であるが、さすがに半日以上見ていると飽きてきたらしく、「降りる降りる!」とやかましかった。事故った人には気の毒だが、ちょうどいいイベントである。 それに事故は追い越し車線で起こった。こっちの走行車線は幸い何とか流れているが、あのいけ好かないFCは向こうで雪隠詰めを食らっている。こりゃ痛快だ。このまま引き離せば、しばらくは会わずに済むだろう。何せあの強引な割り込みには何度も冷や汗をかかされたから.... 「それにしても琢磨、あの事故車はなんだろう?」三原は長男に問いかけた。 「・・・・」彼は黙ったままだった。 「どうした、琢磨?眠くなったか?」 「・・・・」黙って首を振る琢磨。 「なんだ?どうした?」 「・・・・・・・・おしっこ」 車内が騒然とした。 「ど、どうしようあなた?」 「どうするって・・・近くにSAはないぞ」 「しょうがないでしょ、どっか止まれない?」 「あ、PAならあるよ、なんとか突っ込んでみよう。そこまで頑張れよ!琢磨」 「・・・・・」股間を抑えながら黙って琢磨は頷いた。 彼らの車はタイムリミットにギリギリ先んじた。 妻とともにトイレに駆け込む長男を見やった三原は、ふと振り返って愕然とした。 ナトリウムランプの灯り始めたPAの本線合流路が満杯でほとんど動いていない! 「や、やられたっ」 天を仰ぐ三原の目の前を、あのムカつくセブンがのろのろと通過していった。
豊橋バリアを目前にして、渋滞はますます激しくなった。 数十メートル先に見えるゲートが、すべて埋まっている。 せっかくここまであいつらを引き離したのに、結局AZワゴンは3つ向こうのレーン、GoldWingは端っこのほぼ同じ位置に並んでいる。 だんだん圭介は空しくなってきた。 「こうなったら・・・・最後の勝負だ」 バリアの膨張部を抜け、誰が本線にトップでたどり着くか・・・その勝負にすべてを懸けよう。 「それがどうした?」といわれればそれまでだが、あまりに長時間走りつづけることを余儀なくされた圭介の頭は、すでに正常な判断力を失っていた。 幸いというかなんというか、AZとGoldWingの両者もこちらをチラッチラッと眺めている。どうやら同じことを考えているらしい。「・・・・望むところだ!」...なんだか燃えてきた!! ゲート進入はほぼ同時だった。すばやく券を受け取り、シフトを叩き込む。リアが白煙を上げ、ロータリーの甲高い排気音と共に猛然とFCはダッシュした。 AZもどうやらターボモデルらしく、低速域ではかなりの伸びを見せた。だがそこまでだった。勝負はGoldWingとのマッチレースの様相を呈した。だがGoldWingは次第に遅れだす。「勝った....?!」 ....その時!! 突如として、前方をふらふらと走っていたラーメン屋の軽トラックが、車線に割り込んできた!驚いたオバちゃんの運転するマーク2がもう一方の車線に飛び出す!! 完全に前方を塞がれた。反射的にブレーキを蹴りつける圭介。Brenboの強烈なストッピングパワーが炸裂し、チューンド13Bロータリー550PSの爆発的加速はまさに「瞬殺」された。 ・・・・その横へ。 トコトコと速度を緩めながら左右からAZとGoldWingがやってきた。 3車は本線上で仲良く黙り込んだ。 すでにとっぷりと日暮れていた。
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