短期集中連載(笑)![]()
−この物語は、フィクションである−
その69
”・・・まったく、今回の沿岸地勢改良計画の無謀な事といったら例の汽水湖の農地化事業に匹敵する程である。列島改造ブームに沸き返るのは、我々中堅ゼネコン業者としても有り難い話ではあるが、ここまで計画が前倒しになってはいくらマンパワーがあっても足りない。嬉しい悲鳴を通り越してアリガタ迷惑である。
昨年の日本最大の湖の総合開発事業の入札で、前知事を抱き込んで多額の金をばらまいた上に大手のB工務店に先んじられた時は地団駄を踏んだものだが、今はそれどころではない。あちらさんもバックオーダー抱えすぎで資材調達の短期支払がショートしそうな状態だそうだ。いい気味だとは思うが、こちらとしてもそれよりとてもマシな状態とは思えない。
それにしてもなんだってこんな時期にこんな所を干拓しなければいけないのか。うちらとしてはどうでもよいことだが、この工事のおかげで海沿いから100m以上も退却を余儀なくされる海の家の経営者たちにとっては迷惑千万な工事だ。こんなわけのわからない工事を発注する県の土木課の連中は全く業突張りの低能ぞろいである。仕事を貰っておいて言うのもなんだが。
大体予算の使い込み目的で工事が殺到する年度末は、地方からの出稼ぎどもをフル投入してタコ働きさせればいいのだが、こんな夏の最中に田んぼを放り出して来る奴が居る筈もない。おかげでトップ自らこんな所でユンボを振り回さなければならないのだ。
汽水面での作業は危険を伴う。先週も作業員が作業機械ごと波にさらわれて横倒しになり、あやうく永久水没の憂き目に遭う所だった。別に人間ひとりぐらい補充は利くが、作業機械の破損は高くつく。それに労災補償なんかが絡んでくると話が面倒だ。とくに梅雨明けのこの時期、日本海沿岸は豪雨と突風に晒されることが多い。今日は旧盆の中日だし、できれば作業を中止したいのだがすこしでも作業を進めておかないと、後々の作業に大きく響きそうな進捗状況なのだ。
とりあえず自分は現場は嫌いではない。というより、ハッキリ言って大好きだ。もともと私はスコップ一本から始めた根っからの土建屋だ。
偉そうにしている族議員連中や田舎官僚どもにヘイコラした後の鬱な気分は、ドーザーでげしげしすれば吹っ飛んでしまう。
さあて、今日もイッパツ行ってみるかぁっ・・・・っと、大分荒れてるなぁ、採石の位置を気をつけないと・・・よっと・・・・おぉっ波が来た来た来た来た来た来た来たぁぁっ!!!・・・・”
(どどどっぱぁーーーーーんっ)
・・・・「おーい、正樹も一緒に海に入らないか?そんなに水も冷たくないぞ」
「やだ。お山作ってる」
「あ、そか。同じ兄弟でも随分違うもんだな・・・あ、裕二がそっちいったぞ!」
「がしゃーん」
「あああっ!おとおちゃん!裕二がお山壊したぁっ!」
「しょうがないなぁ・・・おーい裕二どこへ行くんだっ?」
「ばしゃーん!ばしゃーん!」
・・・沢渡裕二(2)は、砂山から両手に掴み取った砂を持つと、そのままドタドタと砕け散る波間に突撃し、砂を放り込む。
もう1時間以上も前から、飽きもせずに同じ作業を繰り返していた。
「なぁ正樹、アレ、何やってんだ?」
「きっとこうじちうだよ、おとちゃん」
「あーなるほどねー、そういえば『はたらくくるま』のビデオに出てたもん(どどどっぱぁーーーーーんっ)お、おーい裕二大丈夫かっ!!」
ひとしきり大きな波が砕け散り、裕二は完全に水没した。
慌てて二人は波間に駆けつけた。
やがてそれが引くと、水の中から砂まみれになった裕二の顔が現われた。
その顔は、にまーっと笑っていた。
....その70へ続く(まーそのぉーウチには自慢の娘がねぇ)