短期集中連載(笑)![]()
−この物語は、フィクションである−
その61
この街にモアイ像が現れてから、3ヶ月ぐらい経っただろうか。
最初はパン屋の前だった。
通りかかる人は珍しげに眺めていた。
「朝起きたら、突然ここにあったのよねぇ」
パン屋のおかみさんがそういった。
「モアイ像のあるパン屋」は、ちょっとした話題になった。
次は住宅展示場の入り口だった。
また通りかかる人は珍しげに眺めていた。
「ずいぶん重いものなんですね。だれが持ってきたんでしょうか」
展示場の営業マンがそういった。
風船で作られたゲートの横に立つモアイ像は、愛嬌があった。
今度は中央通りのど真ん中、マンホールの上だった。
さすがにとおりかかる車は、みんな迷惑そうだった。
「あんなところに置かれるとねぇ....誰がやったんでしょう」
「警察は何やってんだ?」
タクシーの運転手と、酔っ払いの客がそういった。
それでも黙って、モアイ像は立っていた。
そうこうするうち、当の警察署の前にも出現した。
己の門前に来られては、万事に腰の重い官憲も黙っていられなくなった。
「早急に犯人を特定し、像は処分する予定です」
警ら課のキャリアがそう断言した。
だが犯人は見つからなかった。
非破壊検査をしてみたが、別段珍しくもない鉱物の単層構造物だった。
だが破壊しようにも、傷ひとつつけることができない。
撤去しようにも、どうやっても像は動かない。
次第に街には、モアイ像が増えていった。
この頃にはもはやモアイ像を眺める人はおらず、みな気味悪げに目をそらして通り過ぎるようになっていた。
パン屋の主人が姿を消した。
住宅展示場の受付嬢がいなくなった。
視察に来ていた県警本部長が行方不明になった。
そして、今日は雨だ。
めっきり人気の少なくなり、モアイ像ばかりが立ち並ぶ街角を、後藤芳樹(21)はあてどもなくさまよっていた。
すっかり重くなった身体をひきずるように。