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短期集中連載(笑)

−この物語は、フィクションである−

その14

「もしもし、斉藤?」
「おお、山村か、こんな時間にどうしたの?」
「あのさ、明日の結婚式取りやめになったから」
「・・・・・・・・はぁ?」

斉藤正隆(26)が、友人の山村武生からの唐突な電話のあと、彼の部屋へいくまでに30分を要した。どんなに落ち込んでいるかと斉藤は少し心配していたが、山村は別にいつもと変わらず淡々としていた。
「なんか突然あいつが『結婚したくない』って言い出してさあ」
「志穂ちゃんから連絡はあったの?」斉藤は山村の婚約者の名を出した。
「うん、さっき電話があったけど、どこにいるのやら」
「・・・・・・」
斉藤は、山村の平然とした様子に呆れるやら、ホッとするやらで沈黙していた。そう、彼女はさまざまな意味で普通ではなかった....

山村と志穂は学生のころからの付き合いだった。山村が就職で東京に出てくると、あとを追うように志穂も上京し、半ば押しかけの同棲が始まった。斉藤は山村の同級生で、何度か志穂とも顔を合わせている。その当時から志穂は斉藤が知る女性とは一線を画していた。2人が付き合っているということは周囲の人間も知っていた筈だが、それでもその中の何人かは志穂とヤってしまったという話を聞いた。

一日、斉藤が山村たちの部屋を尋ねると、山村は留守らしく、志穂だけがそこにいた。思い出話や近況を報告しあううちに、いつのまにか斉藤は山村と志穂の同棲悩み相談室員と化していた。
「でもね、武チャンって結構冷たいのよ」
「そおかなぁ、まあ確かに何考えてるかわかんないとこもあるけどね」
「そういう問題じゃないの、最近なんだかかまってくれなくて」
「う〜ん、やつも忙しそうだからね。お出かけとかしないの?」
「それは別にいいんだけど、えっちの回数が少なくて」
「は?」斉藤は言葉に詰まった。「そ、そおなの・・・?」
「そうなのよぉ、大体週4回なんて少なすぎない?」
「そ、そおかなぁ・・・?」ありきたりな反問を返すのがやっとの斉藤にも、志穂の発する妖しげなオーラは十分に伝わってきた。
「ねぇ、斉藤君ってカノジョいるの?」
「い、いませんけど...」
「そう......」上目遣いの志穂は、完全に何かをおねだりしているようだった。斉藤は慌てた。「あ、自分ちょっとコンビニにいってくるし....」
夜風にあたりながら、志穂の誘いにかなりヤバげだった自分にアセる斉藤であった。

あの時志穂と寝ていたら、山村とあと数人の知人と同じ立場にいたのだなぁと妙な感慨にふけりながら、今回の婚約破棄もむべなるかなと思う斉藤であった。

そして、数年の後。

山村から久しぶりに連絡をもらった斉藤は、山村とともに志穂の私物を届けるべく、彼女が今住んでいる部屋へと向かっていた。なんでも聞くところによると、英会話教室の外人講師と同棲しているらしい。まさに彼女らしいと感心しつつ、部屋に着いた彼らは、「開いてるから入って」という彼女の声に、ドアを開けて玄関先に踏み込んだ。

彼女は寝室にいた。それ自体は別に普通なのだが、彼女は全裸でシーツを体に巻き付け、気だるそうな様子である。彼女の傍らには、、これもまた全裸の、屈強そうな白人が3人、河岸に上がったマグロのように泥眠していた。

斉藤はふいに、

世界は一家

人類は穴兄弟



という名言を思い出した。

....その15へ続く(穴があったら入りたい...)