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短期集中連載(笑)

−この物語は、フィクションである−


その7
その中学校に赴任してきた高村先生には、妙な噂が流れていた。

高村先生は25歳前後の女性教師で、見ようによっては美人という程度の、これといって特徴もクセもない先生である。生徒に接する態度は温和だし、とりたてて体罰で問題になったという話しも聞かない....体罰、そうあの怪しげな行為を体罰と呼ばないなら。

現場に遭遇した生徒から聞いた人の話しの伝聞という、かなりあやふやな情報によれば、先生は悪戯や校則違反の現行犯を、決して頭ごなしに叱ったりせず、むしろニコニコと接近してくる。怒鳴られれば逃げもするが、こうなると大抵の生徒は動けなくなるらしい。こうして捕捉した生徒に対し、先生は生徒のマブタを遮光土器の如くつまんで引っぱる、ただそれだけだというのである。

それまで、上条健太(13)の周囲ではこうした都市伝説、というより学校の怪談めいた話しに事欠かなかった。どうせ今回のもガセだと思いながら、あのおとなしげな先生が、どんな顔でコトに及ぶのかと想像すると、ちょっとワクワクしてみたりもするのだった。

ある休日のこと、健太は部活動に学校へ出てきた。部室に着くともう練習開始の時間のはずなのに、皆が集まってワイワイ騒いでいる。聞けば、顧問の先生が来られなくなり、自由練習になったとの事、さあこうなると、もう誰も真面目に自主トレなどする人間はいない。

あれこれ話しているうち、仲間のひとりが何を思ったか池の錦鯉を釣ろうと言い出した。OBの県議が、金にあかせて母校に寄付した物凄く高価な観賞魚であることは、健太を始め全員が知っていたが、特訓続きで休日が潰れ、レジャーに飢えていた彼らには、止めようという殊勝な人間は一人もいなかった。

最初は小物を引っかけるくらいではしゃいでいた彼らだが、段々ボスキャラの大物を狙うようになっていた。特に健太は1番の釣果を上げ、用務員室からクスねてきたバケツはもう一杯になりかけていた。周りでなにやら騒ぎが勃発し、健太を除くその他全員が蜘蛛の子を散らすように持ち場を放棄したのにも気付かず、なお池の主をゲットするべく熱中していた。ふと顔を上げた健太の目に映ったのは、高村先生の、あの温かそうな笑顔だった。彼は凍りついた。さあ、どうしよう....

ヘビに睨まれたカエルではないが、例の噂通り、というか噂が頭にこびりついて身体がいうことを聞かない。咄嗟に「あの技」を封じるべく、固く目をつぶった。沈黙の中、高村先生が接近してくる気配が感じられた。

先生は健太の目の前でしばらく何か考えた後、やおら健太の社会の窓を開くと、まだ大切に保護された健太の棒の皮膜を、

「にょみーん」

といいながら引っぱった。

そのまま、先生は立ち去った。
後に一人残された健太は、筍が土を押しのけ陽の目を見る光景を見ていた。

....その8へ続く(さてと、メシでも喰うかい?)