NMB CLKB01/WIN "COOL LEAF"
製造元 Minebea Design directed by Kazuo Kaswasaki
諸元
キー配列 OADG108
メカニズム アクリル+誘電体多層膜/側面LED+導光板
投影型静電容量式タッチパネル
備考 I/F:USB
Junk Point バリバリ新品ですけど、何か?
かつて筆者は「人間の位置感覚の相対性」を論拠に、タッチパネル型の入力デバイスの可能性に対して疑問を呈したことがある。

現在ではスマートフォンやタブレットといったデバイスが勃興しつつあり、それをもって「タッチパネルは次世代の標準UIとなる」という意見もある。
だがそれは筆者も以前述べたように「入力部(=書く道具)と出力部(=表示場所)が接近している」という前提の下に成り立つものであろう。

筆者がタブレットPCなどに血道をあげるのは、それが近未来の可能性を内包している....ということも一部にはあるが、その主たる動機は、

「変なモノ」

だからだ。
出荷時は保護シートつき<br>普通はひっぺがして使う...と思います
出荷時は保護シートつき
普通はひっぺがして使う...と思います"

そんな中、日本で最も著名なインダストリアルデザイナーの一人である川崎和夫氏が、ミネベアとタッグを組んで挑戦的な製品を世に送り出してきた。

基本的に、筆者は権威に弱い。
「エライ人」がよいというモノは、反射的に良い物だと思ってしまう。
なのでそのような状態に陥った場合には疑ってかかるようにアタマの回路をセットしている。

だが、川崎氏のオフィシャルサイトを見ているうちに、この現在においては異端な「キーを持たないキーボード」が、デザイナーのこだわりのみで形作られたコンセプトモデル、いやもっといえば単なる「イロモノ」には見えなくなってきた。

氏のBlogは語句の使い方が怪しげで、文法的にもおかしなところが頻出していて難解なのだが、筆者の読み取る所では、氏はデザインを「消費者の嗜好に迎合して売れるモノを作り、利潤のみを追求する手段の一つ」なのではなく、社会の規範や構造を変革していくひとつの仕組みとして捉え、それに日々取り組んでおられるようだ。

そうした活動の一つの結実が、この"COOL LEAF"シリーズということになる。

ヤバい、ヤバいぞ....基本的には単なる「入力装置」であるはずなのに、なんだかすぎょいモノのように思えてきた。
(表)噂どおりのめっさ鏡で映りまくり
(ウラ)チルトは低めで立てても水平ぽく感じる
....冷静になって検討してみよう。(落ち着け自分x2)

詳しいデザインコンセプトはオフィシャルサイトを読んでいただくとして、言うまでもないがここでの最大の検討事項は「果たしてふつ〜の人間が普通のキーボードとして『快適に』使用できるのか?」ということだ。

フォルムは文句なくカッチョいい。落ち着いた色合いのハーフミラーサーフェイスといい、LEDバックライトのキートップ(?)といい、ヒカリモノがお好きな諸兄には垂涎の的となるであろう。
ひときわ異彩を放つタッチパネルは、もちろんガラスとはいかないが、感じとしてはCDの反射面ほどの強度はありそうで、タッチを重ねる程度では簡単に傷はつかない雰囲気だ。
確かに指紋はつきやすいが、添付のクロスで拭けば簡単にキレイになるし、試してはいないがアルコールで拭いても大丈夫とのことだ。
(ちなみにIPX3防雨仕様)

筐体も薄さの割には重量があり、剛性感も高い。
チルトスタンドもしっかりとしたものがついているが、高さがそれほどないので、立てても感覚的には盤面がほぼ水平に感じられる。
(実はここが少し操作性に影響してくる[後述])

これでワイヤレスだったら....と筆者ならずとも多くの方が思うところだろう。

実際展示会で発表された試作品は2.4GHzRF仕様だったのだが、単3乾電池6本で連続稼働時間が約8時間という短さだった。
電力消費を考えると、USBバスパワード(2.0)でもギリギリなのかも知れない。

勿論、Li-ionポリマー内蔵という手もあったかも知れないが、そうするとおそらく恐ろしく製造原価がかかって、2万円台での販売は難しくなるだろう。
有線化は、製品化とコストを検討した結果の、現実的な選択だったと推察される。
暗闇でかっちょいい〜
...が、配列はEnterまわりがちと、ね。

キーは標準的なOADG108配列...といえなくもない、というものだ。

筆者が個人的に気になったのは、カーソルキーに押されて消滅した右Altキーと、Enterキー周りの配置だ。

普段ほとんど使わないContextキーが最前列から追いやられているのはありがたいことなのだが、何もここに持ってこなくても....と思うのだ。
その結果、Rup/RdownがEnterの右側に回りこむ配列になってしまっている。
筆者はEnterキーをラフに叩くので、周囲にキーがが回り込んだ配列だと、ミスを起こしやすい。

川崎氏はBlogで、
「ピアニストでも練習にはキーシートを用いることがあるので、境界のないフラットな鍵盤面でも問題ない」
「押し下げ力を要するキーボードと違って、タッチだけで入力できるので、手にかかる負担も少なくてすむ」
と述べておられる。

さて、それはいかがなものか。若干疑問を呈したい。

1)ピアノは縦方向の位置選択が2段階しかない

....もちろんプロともなれば、白鍵/黒鍵の選択だけでなく、叩く位置によって微妙な強弱やリズムを作っておられるのだろうが、それでもキーボードの100箇所超の叩き分けには及ばないと思う。

2)キーボードはキートップを叩くだけでなく、ひっかけることでも入力できる

...ということは、比較的アバウトな位置をタイプしても大丈夫ということだ。
逆に言うと、我々は普段、「正確にキートップを叩かない」操作に慣れてしまっているということになる。現に筆者は「Ctrlキーの掌底打ち」などという技を使っていたりするが、当然フラットパネル上ではこれは使えない。
がんばってブラインドタッチしてみました
キー感度はFn+1/2/3/4/5, タップ音音量はFn+↑↓
動画はこちら

なにはともあれ、実際に叩いてみるとしよう。

まず感じたのは「ホームポジションに手を置けない不便さ」だ。
試作品の段階の記事で「感圧センサーで『置かれたままの指』という操作をキャンセルする」と読んだ覚えがあるが、どうやら製品版には実装されなかったようだ。

考えてみればキーリピートと矛盾を来すその機能が実装される可能性は低いとわかるのだが、手を中空に保持しなければいけないことと、(少なくとも慣れるまでの当面は)ポジションに手を持っていくために鍵盤面に視線を落とさなければならない....というのは、普段画面をみたままのブラインドタッチに慣れている者にとっては、意外にストレスがたまるものだ。

もうひとつ感じたのは「パームレスト」だ。
さきほどの点にも関係することだが、筆者の場合、キーを叩いているうちに手首が折れて掌底が下がり、一番手前のキーに触れてしまう....ということがよくある。
一般的なキーボードの場合、チルトさせて手首を若干曲げ、ホームポジションに指を軽く乗っけた状態が基本的な手の位置となるが、この「COOL LEAF」でそれをやってしまうと、Space連打....という事態になりかねない。
先ほど述べたチルトスタンドの低さは、この問題を回避するための策ではないかと思われるのだが、さらに打ちやすくするためには、手前の鍵盤面よりも心持ち高めのパームレストを用意すると良いのではないだろうか。

筆者が今のところ思いつく「正しくタイプするポイント」は、
☆背筋を伸ばした正しい姿勢で
☆手首を曲げずに
☆掌から先を自然に浮かせる工夫をする
☆ミスに繋がらないよう、タイプを見直す(shi→si, chi→ti, zi→jiなど)
....といったところだろうか。

「タイプによる疲労」....これこそもう「慣れ」の問題だろう。

実際「平面をタップする」ことと「キーを押下げる」ことの労力差は、そんなに大きいものではないと筆者は考える。
(筆者のように、ヴィンテージキーボードをげしげしブッ叩いているような人間は別として)
むしろ正確に叩こうとして、上腕〜首・肩に緊張を持続的にかける方が、よほど直接的に疲労に繋がる。
つまり「スムーズに、力を抜いて正確にタイプできる」ようになれば、どんなキーボードでも疲労は大差ない....というのが筆者の意見だ。

ネガティブな点を先に挙げたが、そうした面を除けば「意外に打てるぞ」というのが筆者の感想だ。

筆者のような「backspace連打」を頻発する人間は、今後出てくるであろうUS配列を選択すれば良いかも知れないし、レビュー記事やTwitterのいくつかに見られるような「キーの境界が判りづらい割に、判定がシビア」という意見も、それほどではないように筆者には感じられる。
むしろミスによって普段なにげなく叩いている自分のタイプの癖や無駄な動きを見直す良い機会になるかも知れない(....それは言い過ぎか)。

....いや、それ以前に、ここまで上げた点の多くは「一本指タイピスト」にとっては何の問題でも無いかも知れないのだから。

ところで、先日川崎氏がTwitterに

「COOL LEAF慣れてきました ホームをデコる楽しみ」

というような書き込みをされていた。

「医療分野での使用を考慮したフラットサーフェイス」というデザインコンセプトを真っ向から否定するような開発者自身の発言にのけぞってしまったのだが、「『F』『J』にスワロフスキーはどうよ?」という書き込みも某掲示板で見られたことだし、今後は表面に微妙な突起を乗せてくる展開も無いとはいえないだろう。
もっとも「巻き取りキーボード」のようなものでも可能なので、今後の展開はひとえに今回のモデルの評判と売れ行きにかかっていると言えよう。


(2011/06/01記)

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