SONY PLAYSTATION3 Wireless keyboard
製造元 SONY Computer Entertainment
諸元
キー配列 JIS?/60keys
メカニズム 多分メンブレン+パンタグラフ
備考 I/F:Bluetooth2.1+EDR
Junk Point 頼りない同志
このようなコーナーを書いている筆者が言うのも何なのだが、一般の方にとってメインストリームから離れていくのを実感するのは不安なものだと思う。

想像してみてほしい。
「学生時代から通いつめていた食堂が、近所のファミレスに押されて閉店していた」
「巡回ルート上の冥土喫茶をいつもの如く訪ねたら、ご贔屓のカノジョがスタッフボードから消えていた」
魔窟の博士ショップを久しぶりに訪ねたら、キノコショップになっていた」

....長年愛用している製品の後継機種が、他社との競合に敗れて途絶える時に感じる寂寥感は、それらに似ていないだろうか。

そのジャンルに興味の有る第三者にとって、シェア争いとそれに伴う栄枯盛衰は絶好の観察対象となるのだが、その渦中にある当の競争者にとっては言うまでもなく、劣勢に立たされている陣営のサポーター....というかユーザーは気が気ではないところだろう。

勿論、当のメーカーも必死だから、これ以上のシェア拡大が望み薄となると、従来ユーザー(あるいは『伝道者』と煽て上げたコアユーザー)の囲い込みに営業施策が振られ、結果「ホンダ地獄」「マツダ地獄」といった内向きのコミュニティが形成されるに至るのだ。
キー配列
フォルムのカッチョよさは
流石SONY

特にリテラシーに関わる機器において、ひとつの製品群が消滅することは、多くの人がその操作体系を習得するに要した労と、習熟によって高めた作業効率が無に帰することを意味する。

親指シフターほど深刻ではないが、筆者を含めたスティックポインタユーザ(ぽいんたらー?)もまた、シェアの狭まりにやきもきしているのであ。

かつて群雄割拠状態だったノートPCのポインティングデバイスは、今日ほぼタッチパッド(....はSynptics社の商標らしい。いわゆるスライドパッド)の一人勝ちに帰着している。
TrackBallはほぼ絶滅状態だし(ポインティングデバイス市場全体のシェアが1%ほど)、残るスティックポインタ陣営も採用企業はわずかに7社、そのうち主力機種に採用しているのは我らが(?)Lenovoだけという惨状である。


そんな中、唯我独尊路線企業の雄・SONYが、ゲーム機専用ながらスティックポインタを採用したBluetoothキーボードを発売した。しかもBTキーボードとしては微妙に安い実売\4Kという価格だ。

かの企業に愛憎半ばする微妙な感情を抱く筆者としては、ここで逝ってみるしかあるまい。
「職場にフィットする無線キーボードがなかなか見つからなかった」....という事情も、この際言い訳の一つにしておこう。

サイズの割りに
剛性高く重量感あり
さて、まず実機を手にとって感じるのは「かっちょよさ」だ。

周縁部のほとんどないコンパクトなデザインで、おそらくはカウチに腰掛けながら膝に乗っけてチャットに使う....というような用途を想定していると思われるが、フラットブラックの筐体とキートップは引き締まった精悍な感じだ。

側面から見るとカーブが取り入れられたデザインだが、スカルプチャは平面だ。サイズの割に重量感があり、かつ剛性が高いので、ラップトップに乗っけて叩いても、撓むような感じは全くない。

主要キー部分は日本語配列だが、全てのキーがフルピッチなのも、サイズを考えればよく工夫されている。おそらく製品としては日本語配列が基本で、US配列を別途に作る....という感じではないのだろうか。
スタンバイからの再接続はPSキーで
スタンバイ待機時間は接続先によってまちまち

動画はこちら
しかし、このキーボードには大きなマイナス点がいくつかある。

まずひとつは「鍵盤およびポインタクリックキーの表面がフラット」なことだ。
どういうことかというと、さきほどのデザイン優先の故か、全キートップおよび手前のリムがほぼ同じ高さなのだ。
それゆえに、キーを押下げると周囲より凹む形になり、指が周囲のキーやリムに引っかかってミスタイプしてしまう。

それと、おそらくパンタグラフ+メンブレンのスイッチ構造と思われる接点機構の出来があまり良くなく、垂直かつ十分に押下げないとキーが反応しない場合が多い。

この問題点が、さきほど指摘したフラットデザインの問題点と負の相乗効果をもたらし、特にポインタのクリックや右最下部にあるカーソルキーの操作にかなり手間取ることになる。

しばらく使用してみると、デスク上に乗せた場合、指の入射角が微妙にスイッチと合わずにミスタイプが発生しやすいが、膝の上ではこれが少ない。
このことから、先にも述べたように「膝の上に乗っけた」低めの位置での操作に特化させているのかも知れない。

PCでの使用は、たいていの場合代用のきくキーがあるので問題ない。ただし、Rup/Rdownに相当するキーが存在しないのは困る。筆者はPS3を持っていないので判らないが、プレステでは画面のスクロールをどうやって行なうのだろうか。

筆者の使用環境では、ホストとなるBTレシーバ(あるいはソフト?)によってスタンバイまでの待機時間が極端に違った。
ThinkPad410s+Win7標準スタックではわずか数十秒でスタンバイに入ってしまい、その都度の復帰操作が煩雑に感じられる。これに対し、デスクトップのELECOM2.1ドングル+BlueSoleilでは数時間も接続が維持されるため、電池の消耗が異常に早くなってしまう。

通常のBTキーボードは任意のキーをタイプするとスタンバイから復帰するが、このキーボードは「PSキー」でのみ復帰する。
このスタンバイからの復帰にも問題がある。

復帰中はPSキー横の赤LEDが点滅し、完了すると点灯状態になるのだが、どうも完了直前にスティックポインタのリセットを行なっているようで、点滅中にスティックに触れたり操作しようと圧をかけると、ニュートラルが狂って矢印が画面端に吹っ飛んでいく....という事態に陥る。
しかもハードSWがないので、リセットするには電池を外すしかないのだ。

そのスティックポインタも、LenovoのTrackPointに比べるとやや難がある。
小型でやや沈み込み気味であるため、周囲のキーと干渉しやすい。その上、加圧に対する上下左右の移動距離が感覚的に一定でない(多分ドライバの問題もあるのかも知れないが)。
主力機種用として日々改良を重ねているメーカーとの差と言えばそれまでなのだが、もう少し精度を上げて欲しい所だ。

事ほど左様に問題点が多々あるキーボードなのだが、前出のように数少なくなったスティックポインタの(いささか頼りないが)同志であり、しかも筆者の職場環境には必須の(諄いぞ)、「本家?」Lenovoにも存在しないワイヤレスモデルである。

コンシューマーゲーム機用という、大きな市場に向けて発売されることで一気にスティックポインタが普及し、スライドパッドを市場から蹴散らす日がやがて来ることを切に願ってやまない筆者であった.....つかあり得ないんですけどjk



(2011/07/24記)

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