イカとイカ墨の炒め物(激辛)
製造/販売 滋賀県大津市・タイ料理『チャーン』
諸元 イカ・イカ墨・メシ・ピーマン・魚醤・その他香辛料
Junk Point 出辣の誉れ
「めでたい時は、辛くするのがおいらんちの習慣さ!」
....フィリピンオープン予選を通過した沖田圭介。その晩キャディのチッタ宅で、出された料理のあまりの辛さに悶絶する沖田を前に、チッタ一家はそう言って笑った。
.....翌日の決勝ラウンド、沖田はコース上で火炎を噴射したりしなかったのだろうか。○ンツの中で。

SG県東端の田舎町で事業を営む筆者は、書類を郵送すれば済むような許認可申請やわずか1時間半ほどの講習会があるたびに、南端の県庁所在地まで往復200km以上の道を行ったりきたりしなければならない。
ぱっと見では分らないが
唐辛子の種が無数の撒き菱のように...

結果半日仕事になってしまうわけで、ちょっとした用事でも食事をして帰ってくる習慣がついてしまった。そんなこんなでちょくちょく寄るお店のなかのひとつが、タイ料理「チャーン」だ。
タイでも山間の田舎から日本に来られている女性がコックをされているそうで、近所のタイ料理とはひと味違うメニューもあったりするお店だ。

一日、いつものように会議が終わり、いつものように若干作り置き感のある生春巻と、山村風の豚肉カレーをいただきながら、珍しく自宅に土産を持って帰ろうと思い立った。
辛いものが全くダメなカミさんへの辛くない海鮮炒め物と....目に留まったお勧めのコレをオーダーした。

......卓上POPには「激辛」と、さらっと書いてある。

いや、そうはいっても日本人向けだからなぁ。それほどのモンでもないだろう。
イカ墨好きの愚息にも、これはうってつけだろうし。
一応LINEで「美味しいものと、得体の知れないもの」を持ち帰る旨連絡し、帰途についた。
帰宅し、早速食卓で開けてみた。
....あれ、炒め物か? なんかメシが入っているぞ。
言うなればイカ墨リゾットだ。ナンプラーの香りを除けば、イタリアンに近いように見える。

とりあえず、味見と思ってひとさじ口に入れた。
ふむ、確かにイタリアンと似てるようで微妙に違うスパイスと、魚醤の風味がタイ料理たる...

「あがっ!!!」(*)

以前、筆者が通い詰めていた名古屋・万松寺の、今はなき(跡地はメイドカフェに成り下がっている)屋台風タイ料理スタンド「たいころ」で、いつの間に顔を憶えられていたのか、ピーナツと野菜のサラダがサービス盛りで運ばれてきたことがある。
....グラス型食器の底に1cm半ほどの厚さで、生唐辛子を敷き詰めて。
....ええ、いただきましたとも。滂沱の涙と鼻水を垂らしながら。....せっかくのさぁびすですから。

今回のメニューは、その敷き詰められた『赤い爆発物』が、そっくりそのままイカスミのリゾットに姿を変えた と思っていただければ、ほぼ間違いないだろう。
海産物とナンプラーのコンビネーションが絶妙で、魚醤が好きな方にはたまらない風味の一品だ。
....が、そうした感慨を抱けるのは、口腔に投入した直後の2〜3秒足らずだった。
ほどなく猛烈な辛さ....というより、剣山か、ウニをカラごと口に放り込んだような激痛が襲いかかる。
正直言うと、水溶性辛味成分であるカプサイシンが、煮込まれることによって全体に拡散しているようで、生唐辛子を食しているより強烈な辛味だ。よく見ると辛味本体の唐辛子の種が、メシと共にそのまま入っている。

たびい辛味役いいんちょに及ぶべくもないにしても、我が家で最強の辛味役である筆者がこの状態であるからして、カミさんはもちろんのこと、愚息達もマトモに口に出来るはずがない。
それでも一口頂くごとに牛乳をガブ飲みするなど、なんとか完食目指して皆で頑張ったが、そのままでは3割程度を食するのが精一杯だった。

(1)メシと昨晩の残り(冷凍)を用意(2)唐辛子を拾い出してアリオオーリオ
(3)味覇スープにブチ込み煮る(4)赤くなったら出来上がりww
翌朝、筆者は祖国を遠く離れ心を込めた料理を作って下さったタイ人女性シェフに、心の中で謝りながら、料理をアレンジすることにした。
味覇でスープベースを作り、ガーリックをオリーブオイルでローストして、ホタテとメシを追加し煮込む。
煮込んでいるとスープ全体が漆黒から次第に赤みを帯びてくる。如何に大量の唐辛子が仕込んであったか、この時点でようやく分った次第だ。
とにもかくにも、そうして作り直したリゾットは、なんとか筆者の辛味の許容範囲に入ってきた。

2日がかりでようやく完食かなった筆者が得た教訓は、

『他人にとっての日常習慣が、自身にとってもそうであるとは限らない』

という、至極当たり前のことであった。

お店の名誉の為に繰り返し申し上げるが、料理としては非常に美味な一品だ。
ただ単に「辛さの閾値が高すぎる」だけなのだ。

というわけでチャレンジャー精神に溢れた方、よろしかったら是非オーダーしてみて下さい。
(→特に近郷出身の水性軟体生物さんとか)
翌日のトイレで、荷電粒子砲を撃ち下ろすことになっても、筆者は責任もてませんが。



※ウチナーグチで「痛いッッ」という意味らしい



これは落花生と豚肉のカレー
辛味役でも、そうでなくても美味


(2016/08/28記)

Junk Junky