フグの子糠漬け
製造/販売 任孫商店/ホクチン
諸元 名称 魚介乾製品
原材料 ごまふぐ卵巣、米糠、米糀、食塩、魚醤(いわし、さば)
Junk Point 「ズドンてヤツね」(包丁無宿モブ)

「これは食べられる物か?食べられないものか?」
それは雑食動物にとって永遠のテーマである。

農事と医薬の神である「神農」が、地上のありとあらゆる物の可食性・定性的毒性を自らの身を以て調べ、その知識を民に知らしめたといわれている。
もちろんおそらくそれは象徴的な寓話であって、現実の人類社会においては数知れない無名のチャレンジャーが存在し、人類初の試みから生還した者がその結果を世に知らしめ.....そして残念ながらあっちの世界に逝ってしまった多くの連中を「バカな奴だ」と嘲笑しながら、彼らが口にした物を食卓から排除してきたのであろう。

曲者の脇役達
見た感じはフツーの(笑)へしこ食品
原材料が猛毒とはとても思えない
だが、この「河豚の子糠漬け」のようなケースは、どう理解すればよいのだろうか。

いうまでもなく河豚の卵巣に含まれるテトロドトキシンは、自然界に存在する中でもかなり強力な毒である(経口摂取で青酸カリの850倍の毒性)。
河豚はこの自然界最強クラスの毒物に対して耐性を持っていて、生物濃縮で体内に蓄積されても平然としている。それは彼らの体内に偏在していて、卵巣にも高濃度のテトロドトキシンが含まれているのだ。

元々そのようなでんじゃらすな生物など食の対象とせずにスルーすればよいのに、こともあろうに我ら日本民族は、その弱毒部位をより分け、洗ってさらに減毒し、絶品の料理に仕立てあげてしまった。

某芸人がかの二代目タイガーマスク・故三沢光晴と食事した際に、フグの唐揚げを一人で平らげ、あの普段は温厚な三沢に殺意を込めた視線で睨まれたのは有名な逸話.....だったかな。いずれにしても人間の食欲はことほど左様に不可能を可能にする原動力となるということなのだろう。

しかしそれも「食ったらシビレる(ていうか筋弛緩ですけどね)、じゃあどうしたら食える」程度のフグ白身における工夫なのであって、「食ったら即死」の卵巣をなんとか食べてみよう....というのは、われら一般人の発想域をはるかに超えている。

曲者の脇役達
塩辛口の筆者はこれでもイケる
普通の味覚の方はドンブリメシをご用意下さい
筆者はこの謎の物体の存在を福島在住の雑食性化け猫さんに教えてもらったのだが、物の資料+徳光PAのおばちゃんの口上によれば、この食品は塩漬けに2〜3年、それから糠と魚醤(石川県なのでいしるを使うらしい)に1年、それぞれ漬け込んで作られる。

製法としては、それにかける時間の長さを除けば、単純といえなくもない。ただそれが確立されるまでに、どれほどの挑戦者の死屍が積み上げられたのであろうか。

.....「塩に漬けてみた→死んだ」→「塩に1ヶ月漬けてみた→また死んだ」→「2〜3年漬けた→やっぱり死んだ」→「漬けた物を糠に漬けた→まだ死んだ」→「糠に3年漬けた→( ̄▽ ̄)vウマー」といった課程を経て、夥しい人体実験の繰り返し、その果てに製造法が確立されたと推定される。

だが正答にたどりついた加賀美川近隣のグループはまだ幸運だったといえよう。ずっと塩漬けを続けたグループや、当初から糠漬けだった人々などは、出口すら見えずに延々とギセイシャを生産し続けたのではなかろうか。
いずれにしても筆者が疑問を抱くのは、そこまでして猛毒の物体を食べてみようと思う人々の情熱の源が、いったい奈辺にあるのか?...ということなのだ。

曲者の脇役達
ご口上
ここには「ヌカ3年」て書いてますねw

研究者によれば、上記の製造工程でなぜテトロドトキシンの減毒が可能なのか、じつは完全には分かっていないのだそうだ。
そのためか、そうして出来上がった物体をネズミさんでバイオアッセーし、安全が確かめられたロットを出荷するように決められている。

毒性がないことを確認する食品....なんか間違ってる気がする。だが、それも食してみるとそこまでする事情がわかる気がする。

味そのものは北陸の海産物保存食「へしこ」に連なる味だ。だが元が魚卵だけに、鯖のへしこなどよりもさらに濃厚な味わいがある。大げさかもしれないが、3切れもあればドンブリメシ山盛り1杯はいけそうだ。

我が家のヨメさんは、この塊ひとつを徳光PAで900円で仕入れてきた。
このお値段は、高いのか、安いのか。(ちなみにこれは小、大は1200円だったかな?)

珍味として非常に高いレベルにある味わい、そしてそこまでに費やされた人類の生命と、無駄とも思える情熱を思えば、決して高い買い物ではない。
だが原材料が誰も寄せ付けないアレなだけに.....判断は微妙なところだ。



ステーキと同じく塩味は胡椒で調節
『なるべく早めにお召し上がり下さい』って...


(2014/08/10記)

Junk Junky