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短期集中連載(笑)

−この物語は、フィクションである−


その253

・・・・サイドスラスターでホバリングしながら母島上空を進む薄井幸子(28)。

その眼下、視界の中央に亜熱帯特有のジャングルが広がり、両側には太平洋の青い珊瑚礁の海が、島の岸壁に白波を立てている。

「これで観光だったら....」
「いいじゃろうなぁ、木郷君....」
「何を暢気な事おっしゃってるんですか?!今は一刻も早く目的地に到着することでしょ!!」
....またしても怒号に脳天をブチ抜かれた。

「しかし....もう大丈夫ですよね?このぐらいの速度なら」
「そうじゃな....さっきは亜音速だったからな。時速100kmぐらいのこの速度なら....」「は、はかせ.....」
.....またしても不吉な、「いつもの幸子」の声だった。
「ど、どうしたのじゃ民子さん....メガネはズレてない....あ。」
「な、何です博士」
「.....木郷君。電池の潮吹きじゃ。」
「.....」

た            ま
 ‘           ‘
 た          ま
  み       た
    こ       か
    さ      よ
     あ      よ
      あ     よ
     あ     よ
      あ      よ
      あ      よ
     あ      よ
      あ     よ
     あ      よ
      あ     よ
     あ     よ
     あ    よ
      あ    よ
      あ  よ
       あ よ
       あ よ
      あ  よ
      あ よ
      おあ
     お  あ
    お    あ
     お    あ
     お    あ
      お  あ
      お  あ
      お  あ
       おあ
       お あ
       お  あ
       :  :
       :  :
       :  :
       : :
        ::
        :
      (ばさっ)



・・・・民宿「乳頭」と大きくロゴの入った、ある意味恥ずかしいワゴンが南崎手前の、道のドン尽きに停車し、なかから組長・湯浅(53)が降りてきた。
途中、すでに南崎から戻ってきたと思われるタクシーとすれ違っている。
どうやら、目指す『星』には先回りされたらしい。

道の左手から、小高い砲台跡へと通じるらしい、無理からジャングルを切り開いた獣道が続いている。
湯浅は、その道を駆け上がった。....

....砲台は、洞窟の中にあった。
昔「乳頭」の主人である知人、というか子分に招かれてきたときはただの廃墟だった。が、今は砲身までの洞窟がセメントで固められ、砲身の先には狭いながら見晴台ができて、島の南側が展望できる。

「....そこにいるのかい、晴サンよぉ?」
湯浅の問いに、穏やかな声が返ってきた。
「あら、よく来たわね組合長さん....どうしてここが....あ、そうか。博士と来たのね」
「もう金輪際あいつらとの道行きは真っ平御免だよ」
「あははは、そうね」
「で....あんたは何でまた?その『星』をどうしようってんだい?」
「ん....これね」

相沢晴日(63)はしゃがみこんで、足元の地面に突き立った、メッセージを満載した『星』をひと撫でした。

「あんたも知ってのとおり、それは来年の40周年記念式典のメインイベントのひとつに使う大事なモンだ。返してくれないと俺が困るんだよ。どうしてもって言うなら....」
「勘違いしないで組合長さん。私は最初からこの『星』をどうにかしようってつもりは全然ないの。『ある人』からこれを守ろうと思ったのよ....で、事が終わったら貴方にお返しするつもりよ。ただ...」
「ただ?」
「ひとつだけ、私のお願いを聞いてくれると嬉しいんだけど」
「?」

晴日は首をかしげる組長に近寄り、そっと耳打ちした。....

....「は、博士.....私もうだめですぅ.....」
「がんばるんじゃ民子さん。吉田選手だってコーチを肩車したではないか」
「そんなぁ....無茶ですぅ.....」

相変わらず、薄井は飛んでいる。
だが、砲台を目前にして今にも墜落しそうだ。
既に『ぐるぐる眼鏡』の電源は落ち、いつもの姿に戻った薄井に、博士がおぶさる格好である。
ラムジェットの排熱で、すでに博士はちょっと焦げている。

へなへなと高度を下げた2人は、そのまま洞窟入り口に胴体着陸した。

「いたたた....大丈夫かね民子さ。。。むっ?!」
晴日に先回りされた博士は、なぜか激しく動転している様子である。

「はははは晴日さん...そそそれをどうするつもりかね....」
「どうもしないわ、博士。このままそっくり組合長さんにお返しするだけ」
「ち、ちちちょっと待ってくれ。その前に....」「これですか?博士」

「すまねえ博士。さっき晴サンからどうしてもって頼まれてさぁ....この2通だけ、取り出させてもらったぜ」
「を、をぃーーーー!!組長!!!それは!!!」「....何ですか、それ....」

何時の間にか、リュウガ先生との激闘の後のようにボロボロになった薄井が、幽霊のように近づいて2通のメッセージを覗き込んでいる。
「俺も見てえなぁ、なんなんだい、それは?」組長まで興味津々の様子だ。
横からはよく見えないが、一通には宛名が「博士様」、差出人が「相沢晴日」とあり、もう一通はその逆になっているらしい。

晴日はニッコリといたずらっぽく微笑みながら言った。
「んーこれねー....実は私と博士の」「わーっ!!!」
博士は大絶叫と共に晴日の手からそのメッセージをむしり取り、そのまま口に押し込んだ。
「く〜ほやひはんはら読まふに食へた〜♪(ムシャムシャ)」
「ああーっ!!博士きったねぇ〜!!」
「....ずるいですぅ....」

そのさまを見ていた晴日は、いつもの穏やかな笑顔のまま、心の中で呟いた。
「....そうね、2人だけの秘密にしときましょうね」.....

....ジャングルの潅木が、所々で揺れている。
その揺れが、次第に砲台跡の丘に近づいてくる。

「さて、ぼちぼち帰るとすっか。あまり暗くなるとジャングルで遭難だ」
組長に促されて、『星』を抱えた薄井と晴日が先に丘を下っていった。

まさにその瞬間。
潅木の茂みから、木郷君(27)が跳躍した。
「これは....まさに鬼瓦砲台の心臓部!!成敗だ!!『魚屋ぶるぅふらっしゅ』!!」
「ま、待て木郷く...」
.....すでにあっちの世界に行ってしまっている木郷君に届くはずもなかった。

ヴン。

海中に突き落とされること数十余回に及ぶも、肌身はなさず持ちつづけた時空固化切断機「一心太助」が、最後の最後にフルパワーで炸裂する。
しかも、無意味に。

洞窟内に組長、博士、そして木郷君自身を残したまま、丘の先端が砲台ごと、煌く南の海向けて斜めに滑った。


 あ
  あ
   あ
    あ
     あ
      あ
       あ
        あ
         あ
          あ
           あ
            あ
             あ
              あ
               あ
                あ
                 あ
                  あ
                   あ
                    :
                                            (ぼちゃっ)



・・・・年が明けて、2005年。
ここブロードウェイの40周年を祝うイベントが、賑やかに行われている。....が、まあいつもの通りの魔窟であることに変わりはない。

『星』も無事40周年記念イベント実行委員会の手で封印を解かれ、20年前にそれぞれの想いを込めて書かれたメッセージカードが相手に届けられた。

たった2通の例外を除いては....

「....いいかげん教えてくれてもいいじゃないですか博士。あの晴日さんと博士って一体どういう関係なんですか?」
「聞こえないー」
「....私も知りたいです.....晴日サンって科学技術にも凄く詳しいですよね....ひょっとして博士の憧れの先輩とか....キャッ」
「わからないー」
「もう.....ここまで騒ぎを大きくした責任を取って、ちゃんと白状してくださいよー」
「わかーらないから覚えてなー....と。覚えてないといえばそうじゃ木郷君、ワシは今度デジタル情報をアミノ酸配列に変換して、それを内臓から吸収することで記憶するデバイスを開発したんじゃよ」
「ま、また話をそらす....でもそれは面白そうですね。どれですか?」
「これじゃよ木郷君....名づけて『暗記ケバブ』」
「胸焼けしそうな名前ですね....でも食ってみるか(んぐ)」
「どうじゃ木郷君?」
「『ふりおさん、相撲の得意な決まり手は?』『とったり〜♪』....え、え?何ですかこれ?」
「『天才秀才バカ』じゃよ、知らんのかね」
「知りませんよ...『植木さん、何で水着持ってこなかったんですか?』『泳ぎでない』....ちょ、ちょっと待ってください....」
「一気におやぢ化が進んだようじゃな、木郷君....」

いつもの風景が展開される博士ショップの階下。
『20年後の誰かに、メッセージを.....このメッセージボックスは、2025年の60周年記念の年に、送りたい相手に送付されます』....そう書かれた、新しい『星』が置いてある。

その前で足を止めたのは、相沢晴日。彼女の手には2通の古びたメッセージカード。
その一通の差出人は「博士」、受取人は「相沢晴日お姉様」とあり、もう一通は「相沢晴日」、「博士クン」とある。
どうやらこちらが本物だったようだ。

『星』のスリットから2通を投函し、晴日は穏やかに微笑んだ。

「さて、今度は配達されるかしらね....?」

....『博士ショップ』は、中野ブロードウェイにある。

....その254へ続く(・・・・)