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短期集中連載(笑)

−この物語は、フィクションである−


その210

半ば下ろしたブラインドの隙間に、青く染まった空が挟まっている。

クロスを敷いたキッチンに差し込む午後の日差しが心地よく感じられるほどに、秋が深まりつつあるようだ。
僕、中野誠之(24)は横縞の中に寝そべったまま、左手に持ったM.McCollumのペーパーバックの中で宇宙船がジャンプするのを、ぼんやりと眺めている。
そして右手は....滑らかな手触りの黒く柔らかなモノをもてあそんでいる。

Vivianの細く白い指が、大きなサヤエンドウのスジを取っている。
しなやかな動きの腕がオフベージュの半袖へと繋がり、ゆったりとした盛り上がりの胸元を下ると、チャコールブラウンのスカートが丸く可愛いヒップの形になって僕の視線の先に座っている。

そして....彼女は少し違っている。

シャツがふわりとスカートを隠す辺り、そこに3センチほどのリングがはまっている。そこから....Velvetのようにつやつやと光る「紐」、そしてその先端に尖った三角形の鉤....Vivianの「ribo del deva」が出ているのだ。

「....?」
Vivianがこちらを向き、笑いかけた。
僕も、彼女に笑い返す。
ブラインドの隙間で、青空がゆれている。....

....その日、僕は公園にいた。
木陰のベンチで、まもなく終わるここでの暮らしと、帰るべき国の喧騒を思い浮かべたりしていた。

きれいに刈り込まれた芝生の上を、この国の涼しい夏の風が流れていく。

「....?!」
驚いた僕は後ろを振り向こうとして、首が回らないことに気がついた。
白く柔らかな腕が絡みつき、そしてうなじに微かな痛みを覚えた。
それは....まるで前に飼っていた猫が、じゃれて僕の手の水カキに噛み付いた時のような心地よい感触だった。

無理に向けた視線の先に....長く黒い髪、僅かに蒼い瞳、細い鼻筋....あの日のVivianがいた。

「....」
彼女は何も言わず、僕の襟元に噛み付いたまま、優しく吸い続けた。

散歩の老婆が、僕たちのいるベンチの前を微笑みながら通り過ぎる。
風が通るたびに、広葉樹の枝から短い夏を謳歌した小さな花が舞い落ちる。

長い間、僕はその感触を楽しんだ。

そして....彼女に声をかけた。
「あの....痛いんですけど....」

翌日、僕は会社に辞表を出した。....

....「ribo」を持つ「deva」が歩いていても、この町では別に驚くことではないらしい。
だがその「deva」が異国の男を選んだのはあまり例のないことらしく、僕はたちまちのうちにちょっとした町の有名人になってしまった。
おかげで、職探しに困らなかったのは有難かったが。

Vivianは、一言も話そうとしなかった。
彼女たちが「ここ」にいるときは、そうしなければならないそうなのだ。
で....僕たちは、気持ちだけで会話をすることになる。

一度だけ、彼女を怒らせたことがある。
この国の滞在期限が切れる直前、僕は一度母国に帰ることにしたのだ。
僕がそのことを伝えた瞬間、彼女の形相が変わった。

そして....あとのことは覚えていない。
気がつくと、ベッドの上で傷だらけになって横になっている僕、そして目を潤ませながら僕の傷口を一所懸命に唇で舐めているVivianがいた。

どうやらVivianは、僕が彼女を捨てて国に帰ってしまうものと勘違いしたらしい。

僕の素肌を彼女の唇が滑る度に、赤く腫れ上がった傷が消えていった。
そして、僕の体の中で別のものがせり上がってくるのを感じずにいられなかった。

Vivianには「ribo」がある。

でも、それ以外は普通の女性と何ら変わることが無かった。

その瞬間、彼女は身をよじらせながら「ribo」を僕の腰にしっかりと巻きつけた。
そんなことが何度か繰り返され、そして夜が更けていった。....

....ブラインドの向こうに、オレンジ色の空が満ちている。
いつのまにか眠ってしまった僕の視線の向こうで、オーブンに向かうVivianの「ribo」が揺れている。

そして僕の背中の上に....3頭身のVivianが乗っかっている。

「ほら、こっちにおいで。Vera」
僕から降りてトコトコやってきた彼女のおむつには....1cmほどの真鍮のリングがはまっている。

「公園にでも行こうか、Vera」....

....その211へ続く(Written with 一太郎v3)