変な話Indexへ戻る

短期集中連載(笑)

−この物語は、フィクションである−


その119

”Ah....!Fuck me!!Fuck me to death or kill you!!....”

エヴァの叫び声が店内にこだまする。
きっと外で突入を待ち構える機動隊員の耳にも届いていることだろう。

「姦って!でなきゃ殺っちゃうよ!」と言われては、蕪木重正(27)としては従わざるを得ない。手錠代わりにはめられた右手の爆薬のスイッチはエヴァの手の中にあることでもある。

実戦で鍛え上げられたエヴァの肉体は、筋肉隆々ではなく、発達した深層筋をもつ締まりのいい、それでいて女性らしいしなやかなものだった。そしてエヴァ自身も....普通の男なら喜んで従っただろう。

だが、蕪木にはそうはできない宗教上の理由があった。
「わ、私の血が汚れていく....」
そう思いながらも、目の前に突き出された白い下半身を突き上げるのを何故か止められない蕪木であった。

ふと、バリケードの一角が動いた。
と同時に、設置されたブービートラップの一本が動作し、バリケードのモンロー効果を計算に入れた高性能爆薬が機動隊の陣めがけて爆風を吹き付けた。

叫喚とともに、何人かの肉体が四散した....ようだ。

蕪木はそれどころではなかったのだ。
「どうした?!シゲ....止めちゃだめだ!!」
エヴァの命令がきた。
蕪木の下半身ははしばらくの後....「爆発」して果てた。

「....初めての割にはなかなか良かったぞ、シゲ」
エヴァが戦闘服を直しながら、闊達な声をかけた。

さっきまでショーケースに並んでいたハンカチには、エヴァの下半身から漏れ出した蕪木の体液がベットリと染み込んでいた。

「私は....私は....サタンの....今日まで....」蕪木は呆然と呟いた。

そう、それは今日まで積み上げた日々が音を立てて崩れた瞬間だった。万物復帰、アンケート勧誘、「マイクロ」行商....父母様に祝福を受ける日々を夢見て頑張り、そしてようやく上級者のみに許される商法部門に派遣された....よりによってその栄光ある場所で....

「私は....堕落してしまった。これも神が与えた試練か....」
「馬鹿だなぁ。だから言ったろ、『腹が減れば喰らう』だって。戦場ではそうじゃなきゃ生きられないんだよ」
「....それは堕落した肉体の欲だ。肉欲は救済を受けなければ...」
蕪木の主張は、やおら店の入口を振り向いたエヴァのMP5から発せられた爆音に中断された。

またしても店内をうかがおうとした数名が、胸部に赤い華を咲かせて吹っ飛ぶ。
「シゲの言う肉って、あれのことか?」
エヴァが悪戯っぽく笑った。・・・・

・・・・十数時間前、蕪木は店舗のシャッターを半分下ろしながら、今日の「復帰」額を計算していた。最近の逆風の中で「行商」部隊は苦戦しているようだが、健康食品を扱う「店舗」は最近の健康ブームもあってか、好調な数字を残している。このままいくと、復帰目標を大きくクリアすることになりそうだ。父母様も喜んでくださるだろう。

....表から何やら炸裂音が聞こえた。
この辺は夜になると時代遅れの族の生き残りがバックファイアーを吐きながら走り抜ける。とばっちりを受けたら大変だ。
シャッターを下げようと蕪木が入口に近づいたその時。

....中に飛び込んできたのは、右手にM203グレネードランチャーを装備したM16A2、左手にMP5Kを持ち、両肩から弾装を下げた戦闘服の女だった。
「....ゲーム....?」
あまりに非現実的な場面に蕪木は思考停止に陥った。が、そんな彼におかまいなく状況は進行した。

「マルコ、早く!!」
「わかってる!エヴァ、とりあえずバリケードを....」
言いかけた表の男向けて、道路の反対側の警察から一斉射撃が起こり、マルコは電撃を食らったように激しく痙攣した後、地面に崩れ落ちた。
「マルコ....Shit!!」
エヴァと呼ばれた女は、それでもすばやく行動した。
M16が火を噴き、入口のガラスがこなごなに吹っ飛ぶ。

エヴァは振り返り、店内にいた蕪木に銃口を突きつけると命令した。
「棚を動かして入口を塞ぐんだ。早く!!」

弾かれたように蕪木は動いた。
格子状のシャッターを下ろし、蕪木が築いた棚のバリケードに、すばやくエヴァがトラップを仕掛けていく。

一通り篭城準備が整うと、エヴァが声をかけた。
「....ご苦労さん。ところであんたの名は?」・・・・

・・・・エヴァは短いブロンドを立てた、意思の強い眼をもった女だった。

蕪木は人質となったわけだが、どうやらたったひとりのエヴァの戦闘能力と、対峙する警察のそれは前者が圧倒しているようである。とすれば、蕪木の存在はエヴァにとって大して貴重なものではない。ここはエヴァに取り入って説得したほうがよいかもしれない....そう考えた蕪木は、冷静だったというよりも、現実感を喪失していたと言うほうが正確だろう。

「....疲れていませんか?」
「あたし?全然平気。3日ぐらいは寝なくても戦えるから」
「しかし一人では大変でしょう。もしよろしかったら体でもほぐしますから、おっしゃってください」
彼の団体では、リクルートの技術としてその手の教育がなされる。
「そうかい?じゃあお願いしようかね」
蕪木の手がエヴァに伸びた「かちっ。」
「....なんです?!」
「変な気起こしたら、そこから先は吹っ飛ぶからね」・・・・

・・・・「なあ....シゲ....」
「....」
エヴァの手が、また蕪木に伸びてきた。
”....変な気を起こしたのは、彼女の方じゃないか....”
そう思いながら、それがすでに自分の心に言い訳していることに蕪木は気づいていた。

・・・蕪木が教条主義的発言をエヴァに投げ、その都度エヴァが表の警官たちの肉を使って現実を彼の心になすりこむ。大量の血を飛び散らせた後、決まってエヴァは彼に行為を求める。
それが何度も繰り返されるうち、流血と欲望が現実の全てであるかのように蕪木には思えてきた。・・・

レジカウンタに腰かけたエヴァの中へ自ら入っていく蕪木の耳に、聞くともなくつけっ放しのTVのアナウンサーの声が聞こえてきた

”....○○市の健康食品ショップ篭城事件のその後ですが、『犯人と見られる2人組』はすでに警察官24名を殺傷、依然投降の兆しを見せないまま篭城を続けています。重武装していると見られるため、機動隊も突入のタイミングを図りかねている様子です....”

「......え?」.....2人組?
「どうしたシゲ、続けろ。それとも....」
エヴァの言葉に従うまでもなく、腰を動かす蕪木だった。・・・・

・・・・「どうしました?」
「近いね」
「突入ですか?」
「うん。配置が待機状態から変わったみたいだ」
「どうします?」
「そうだねぇ、グレネード一発ぶち込んで後は掃射で終わり...ってとこかな。でも弾ももったいないし、あんまし街を汚しても申し訳ないし」
「いっそのこと、逃げたらどうです?」
「....どうやって?」
「このビルのエレベータシャフトを使うんです。通気口と接続しながら上階まで上がってますから、屋上まで上がってしまえば後はこの密集地、屋根伝いに逃げられます」
「なるほどね、そうしてみるか」
奥の鏡を覗き込んでいたエヴァが、やおら振り向きざまにMP5を発射した。
今まさに店内へ向けて閃光弾を発射しようとした機動隊員が、もんどりうって倒れた。
放り出された閃光弾が暴発し、機動隊はパニックに陥った。

その隙にすばやく通気口に上ったエヴァが、蕪木にメモを渡しながら言った。
「あんたのその腕の、爆薬ってのはあれは嘘だ」
「え?」
「またな、シゲ。会いたくなったらそのインカムで連絡をくれ」
そういい残すと、あっという間に通気口へと姿を消した。

蕪木は手の中のメモを見た。
それにはCQのコールサインと、スクランブルコードが書かれていた。
「....携帯ぐらい、教えろよ....」
十数時間前とすっかり人が変わってしまった蕪木が苦笑すると、表を見やった。
警官隊が何か喚いている。
「無駄な抵抗は止めて1分以内に投降せよ!さもないと攻撃を開始する!!」

とうとう本気になったようだ。
だがさっきのエヴァの戦い振りを見ていた蕪木は、それも虚仮脅しに聞こえた。

エヴァの置いていった、銃身の長いM16A2を手に取ると、M203のトリガーに手をかけ、警官隊に向けた。

蕪木の人生で、一番長い一日の夜明けだった。




....その120へ続く(どの団体とも関係ないです。いやマヂで)