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短期集中連載(笑)

−この物語は、フィクションである−


その91

それにしてもここ数日、住居を老朽化させる光線の照射が減少してきた。これで、普段は毎月1度の全面移転の周期が、この時期さらに短くなっていたが、ようやく少しは延びるだろう。
おとなりのディオファントスさんはこの前の照射の時にメイドさんのジプシーが頑張り過ぎたのか、室内がすっかり黒一色になってしまっている。これは復旧までに時間がかかりそうだ・・・
「やあどうも、おはようございます。アトロポスさん」
声をかけてきたのはお向かいのディオゲネスさんだ。
「こう暑いと、増水が多くて大変ですね」
「まったくです。おまけに政府がそれに合わせて給水するのはいいんですけど、多すぎて家の中まで水浸し....なんてこともしょっちゅうですからね」
「政府ですか.....こないだも配給食糧の中に妙な混ざりモノがあったらしいですね。ご町内の何件かが家屋を破壊されたのもそれが原因とか」
「なんか最近週に一回は特に酷い日があるみたいですね。浄化システムはどうなってるんですかねぇ」
「それなんですけど、あの浄化システムは週に2日ほどオーバーフローを起こすらしいですよ。それでも政府が有害物質を発生しないように努力しないので、その日はこっちにとばっちりが来るという噂です」
「まったく政府はなにやってんですかね...」
「とはいっても、お偉方の姿なんて見た事ありませんしね」
そのとおりなのだ。この近所で、いや少なくとも彼らの知る範囲で、行政がどのように運営されているかを知る者は皆無だった。
政府が食住の全てを管理している。家は全て公営の無料住宅、食料は配給制だ。毎日のように空からは外壁の修理剤と思われる液体や塗料らしき粉末が散布されるが、効果のほどは疑わしいというのがもっぱらの評判である。
食事はというと、政府から供給される食物を、全ての家庭の全ての主婦がまったく同じ料理にし、それに対しては不服をいうものはいなかった。
いや、なかには幾人かそれに不満を述べる事もあったが、それによって特に政府から弾圧を受ける事も無い。だが...
「....しかしたまには抗議行動もとらないといけませんね」
「そうですね。そういえば貴方は欠席されてましたが、こないだの町内会で話し合った結果、また今晩抗議のたき火大会をするそうですよ。どうも政府はあのたき火をやると環境改善に熱心に取り組んでくれるみたいですし」
「あぁ、またやるんですね。今年に入ってから何回目でしょう」
「面倒でしょうが、またよろしくお願いしますよ。焚き木集めは肉屋のペリオイコイさんにお願いしときましたから。あそこはラードも沢山溜めておられることですし」
「そうですか。では今晩に」・・・・

・・・・土曜日の遅い朝、鈴鹿初美(28)はガンガンする頭を抱えながら、なかなかベッドから起き上がれずにいた。
今日は午後彼氏との約束があったが、昨晩の会社の同僚との深酒が祟って、一歩も外に出たくない気分だった。でも....
「せっかくカレがQueen'sSquareでご馳走してくれるっていうんだもん、断れないわ.....よぉ〜し、あ、あれぇぇぇっ??!!」
全力をふるって起き上がり、鏡を覗き込んだ初美は愕然とした。
またしても両頬におびただしい数の真っ赤なニキビが、一夜のうちに発生していたのだ。「ど、どうしよう....こんなんじゃ出かけられない〜」
”もう飲み過ぎはこれっきりにしよう.....”そうココロに固く、だが何度めかの誓いをたてる初美であった。







....その92へ続く(ハタチ過ぎれば吹出物)